ツルゴアXXX

ARTICLE PAGE

14 2014

ビル・フィンガー&ボブ・ケイン他/バットマン アンソロジー

バットマンアンソロジー表紙
『ザ・“バット・マン”!
彼こそは、犯罪を追い、報いを与える冒険者!
社会に潜む悪を求めて、彼の果てしない戦いは続く…
その正体は、謎に包まれている!』

バットマンを知るための究極の入門書!

永きに渡り連載され続けているアメコミ『バットマン』。
映画は知っているけれど「原作版はどれから読んで良いかわからない!」という方のための究極の1冊です。
往年の名作から最新作まで、20作品のアンソロジーを紹介します。フルカラー368ページでソフトカバー仕様。


◆収録作品

1939年05月:Detective Comics #27
1939年11月:Detective Comics #33
1940年04月:Detective Comics #38
1944年01月:Detective Comics #83
1948年10月:Batman #49
1955年02月:Detective Comics #216
1958年06月:World's Finest #94
1964年05月:Detective Comics #327
1967年01月:Detective Comics #359
1970年01月:Detective Comics #395
1974年09月:Detective Comics #442
1977年12月:Detective Comics #474
1980年04月:DC Special Series #21
1987年05月:Detective Comics #574
1991年08月:Detective Comics #633
1997年07月:Detective Comics #711
2001年06月:Detective Comics #757
2006年09月:Detective Comics #821
2013年03月:Batman and Robin Annual Vol.2 #1
2013年08月:Batman Vol.2 #21


◆QUATRIÉME PARTIE - CHEVALIER NOIR
小学館集英社プロダクションでもなく、ヴィレッジブックスでもない出版社、『パイインターナショナル』からまさかの邦訳バットマンが登場!
本の帯に75周年のロゴマークがあるように、『バットマン75周年』を記念しての発売となりました。
基本この出版社は画集とかバンドデシネの邦訳を中心に刊行していたんで、正直アメコミをリリースするとは思わなんだ。

と思ったらこのアンソロジー、元々は英語圏で出た本ではなく、DCコミックスとフランスの出版社UBAN COMICS共同で手掛け、フランスで発売した本を邦訳したもの。
【原書試し読み】

つまり、フランス語に翻訳された物をさらに日本語化するという再々翻訳がなされたわけなんですね。
なんか『総天然色AKIRA』みたいだ!あんま正しい例えじゃないけど!

※セリフの細かな食い違いを避けるためと、アンソロジーでは本来存在していたはずの吹き出しが独自に削除されていたりしたため、きちんとコミックの原本にもあたって翻訳したとの事です。
(2014年11月24日修正)


本書『バットマンアンソロジー』初邦訳となるエピソードも多いのが嬉しい点。
過去の邦訳との被りは『World's Finest #94』『Detective Comics #442』『Detective Comics #474』の3作品(全て『BATMANオリジナル・コミック日本語版』に収録)と少なめです。
読んだことあるエピソードが1つでもある時点でちょっと損した気分になるのも本音だけど。

バットマン初登場エピソード
バットマンの歴史的初登場エピソードもついに邦訳

ビル・フィンガーとボブ・ケインによるバットマン第1話や、初代ロビンことディック・グレイソン初登場エピソード、最初期はふくよかなデザインだったアルフレッドが1943年の映画『バットマン』で彼を演じたウィリアム・オースティンの外見に合わせて今現在でも知られる姿に変化したエピソード、ビッキー・ベイル初登場エピソード、バーバラ・ゴードンがバットガールとなったエピソードといった風に、歴史的な作品がいくつかチョイスされています。

この他にはバットマンにコミックス・コードの官印が押される1ヶ月前に発行されSF的な作風に転換しつつあるエピソード、改めて“真面目な”作風に切り替えにかかった「ニュー・ルック」最初のエピソード、デニス・オニールニール・アダムスというコミック界でも偉大なアーティスト・コンビが初めて組んだエピソードなど、初登場エピとは別の方向で重要な作品を収録。
ブルースが怪我した自分の代役に3055年の未来でバットマンとして活躍している青年ブレイン・テイラーを呼びつけて代わりに活動してもらうというエピソードはホント発想がぶっ飛んでるので必見。

難点を挙げるとするなら有名ヴィランの登場エピソードが極端に少ない事と、邦訳独自の解説が一切無い事でしょうか。
ただ前者は下手すると収録作の時代に偏りが出てきてしまう問題があり、後者はまあ……この本では元々各作品の解説ページやコラムが充実しているので、あまり気にする程でもないかも。
わりと数話完結が基本な中、本書は1話完結のエピソードから選ばれているんで結構チョイスが難しいのかもしれない。
でもジョーカーの歴史的初登場エピソードぐらいは読んでみたかったぞ!!

本書では当然小プロやヴィレッジの邦訳とは訳者が違うため、一部登場人物がこれまでの邦訳本とイメージの違うキャラに変化しているのにも微妙に注目です。
落ち着いた喋り方をするイメージだったレスリー・トンプキンスが若干ざっくばらんな口調のキャラになっていたり、一人称が「僕」となりどこかあざとくなったダミアンが特に印象的でした。

ここからは本書で特にオススメしたいエピソードを二つほど簡潔に紹介。

◆Detective Comics #633 『アイデンティティ・クライシス』
バットマンアイデンティティクライシス

『部屋の中心で何分も立っていた。
 見慣れたケイブが姿を現すのを待ってでもいるかのように…
 これが悪趣味な冗談であるかのように…無論冗談ではなく現実だ…
 しかし、あり得ない事だ。バットケイブが消えた!』


ライターはピーター・ミリガン、アートはトム・マンドレイク。
タイトルこそアイデンティティ・クライシスですが、2004年のDCのクロスオーバーイベント『アイデンティティクライシス』とは別に関係無いです。

何故かゴッサムリバーの水の中で目を覚ましたブルース・ウェイン。
ブルースは記憶が混乱しており、それまで何が起こり、どうして自分が水の中にいたのかが全く思い出せない。
仕方なく昨夜の自分の行動を把握しているはずのアルフレッドに尋ねることに決め、屋敷に戻るブルースだったが、いくら質問しても要領を得ない。
とりあえずブルースはバットケイブに篭もろうとするのだが、なんとその入口が消失してしまっていた。
アルフレッドに地下に案内してもらうと、そこには殺風景な風景が広がっており、ケイブそのものが存在していなかったのだった。
それどころかアルフレッドとティムはブルースがバットマンである事を知らず、別の誰かがゴッサムでバットマンとして活動している始末。
ブルースは自分がバットマンではない世界に迷いこんでしまったのか、それともこの世界が現実なのか……?

「もしブルース・ウェインがバットマンでなかったら?」というコンセプトで制作されたエピソード。それまでのバットマンとしての自分を否定する世界に突然放り込まれたブルース・ウェインの姿を描いており、加えて謎が謎を呼ぶストーリー展開が堪らない一作。
終始漂う気味の悪い雰囲気衝撃的なラストなど、本書収録の作品の中では一際異彩を放っています。

◆Batman and Robin Annual Vol.2 #1 『バットマン・インポッシブル』
バットマンインポッシブル

「ダミアンの次の仕掛けも今回みたいに家族がらみならひとりで行きたい。
 正義をもたらす暗黒の騎士の泣く姿を見られたくないしね」

「あなた様の泣かれる姿でしたら何度も拝見しておりますよ。
 おしゃぶりをなくされた時、小三で蟻の巣の瓶を落とされた時、
 映画『ナチュラル』のラストと『荒野の七人』での…」

「ブロンソンが子供を助けた場面だな。今度言ったらクビだぞ」


ライターはピーター・J・トマージ、アートはアーディアン・サイアフ。
ニュー52版『バットマン&ロビン』のアニュアル(増刊号)の邦訳です。

息子ダミアンの計画に付き合わされ、アルフレッドと共に突然旅行に向かうことになったブルース。
ブルースは渡されたタブレットで通信を受け取り、ダミアンから送られてくるヒントを元に両親の思い出の地を巡る事になるのだった。
一方その頃ダミアンは内緒でバットマンのコスチュームを身に纏い、父が不在の間のゴッサムシティを独自にこっそり守っており……

実力こそ本物なものの、父譲りの頑固さを見せて周囲の手を焼かせることに定評があるナマイキな性格の5代目ロビン、ダミアン・ウェイン。
しかしこのエピソードでは父ブルース・ウェインを尊敬する彼の繊細な面を丁寧に描いており、ダミアンファンもそうでない人にも必見な作品に仕上がっています。
ブルースですら知らなかった両親の思い出の地を訪れていくというストーリー展開は涙腺が緩むこと間違いなし。
バットマンのコスチュームに身を包んだダミアンの姿も微笑ましい。ラストも心暖まる締めくくり方であり、このエピソードは本書の中でも一番の傑作なんじゃないかと思ってます。個人的に。

◆感想
個人的な感想としては、初期のエピソードは興味深い部分こそ多いものの流れがやや荒唐無稽すぎて面白いと感じるストーリーは正直少ないんで、表現規制を乗り越えてサスペンス調の作品に戻る1970年代あたりに突入するまではちょっと退屈かもしれません。
(無限在庫のレビューでも似たような事書いた気がする)

しかし、初版以降刷られなかったくさいのにいつまでも本屋や通販サイトで普通に入手でき、『無限在庫』と揶揄された『BATMANオリジナル・コミック日本語版』も近年ついに絶版となり、各時代のバットマンをざっくりと把握できる邦訳が無くなった所にこの『バットマンアンソロジー』の発売。
「バットマンに興味があるけどどの邦訳から手を出したら良いか分からない……」って人にはちょうどいい一冊だと思います。
なんだか全体的に訳が固い印象はあるんですけども(小声)。

というか流石に無限在庫に入っている話は今見ると本当に時代を感じるエピソードばっかりなんで、バットマンの歴史を俯瞰するなら本書の方が断然オススメ!
後期になるほど目を見張る作りの作品が増えてくるし、前述した二作以外にも良質なエピソードが数多くあるんでぜひ一度読んでみて欲しい邦訳本です。
小プロから邦訳予定の『バットマン:ゼロイヤー(THE NEW 52!)』一足早く読めちゃうよ!1話だけ!

◆おまけ -邦訳独自のこだわり-
 
関連記事

2 Comments

久仁彦  

邦訳本には珍しく、古い作品でも作者の細かいプロフィール紹介まで収録されているので
そういう意味でもありがたい本でしたねー。
『オリジナルコミックス』と一部収録作が被るのは残念ですが、
飛行機がらみの話で『オリジナルコミックス』に収録されてたエピソードが言及されてたのも嬉しかったり。

ジョーカー関連の話が少なかったのは意外でしたが、
本国では『ジョーカー傑作選』的な本がわんさか出てるからこのチョイスは意図的なものなのかな?

2014/11/14 (Fri) 17:22 | EDIT | REPLY |   

michael  

>>久仁彦さん
>飛行機がらみの話で『オリジナルコミックス』に収録されてたエピソードが言及されてた
作品そのものの解説が毎回入ってるのは読み応えがありましたねー。
一度見たエピソードでも制作の裏側を知るとまたちょっと違った視点で楽しめますよね。
あの飛行機回のアーティストのアレックス・トスは『宇宙怪人ゴースト』や『怪獣王ターガン』の生みの親だったというのもこの本で知ってビックリしました。
昔カートゥーンネットワークでやってたよコレ!

2014/11/15 (Sat) 01:44 | EDIT | REPLY |   

Leave a comment