ツルゴアXXX

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05 2014

ボブ・ゲイル&アレックス・マリーヴ他/バットマン:ノーマンズ・ランド 1

ノーマンズランド1巻表紙

“秩序、構造、ルール。
 これらがなければ、文明社会は存在できず……自由は混沌と化す”

「貢ぎ物?海賊か暴君みたいですね」
「これが新世界のルール…言語だ。言葉を知らずに成功することはできない」
「新世界の言語をすべて理解しておられますか?」
「いいや。だが、学んでみせる」


伝説を、目撃せよ!

正義の戦いは終わり、生存競争が始まった!
伝染病に大震災……災厄の続くゴッサムシティに、残酷な決断が下される。アメリカ政府がゴッサムシティを再建不可能と認定したのだ。アメリカの汚点だった犯罪都市を本土から切り離すことで、存在そのものを抹殺しようと考えた政府。
こうしてゴッサムシティは本土から隔離され、もはや合衆国の領土とはみなされず、そこに残った人々もアメリカ国民としての資格を剥奪される形となった。いまやこの不毛な大地に住んでいるのは、自らの意志でここに残った者と、残らざるをえなかった者だけ。
そして3ヶ月が過ぎた……。ゴッサムシティはもはや存在しない。“無人の大地”ノーマンズ・ランドにようこそ。

圧倒的なスケールで描かれ、映画『ダークナイト ライジング』の原作のひとつにもなった記念碑的作品、堂々の刊行スタート!


◆収録作品

1999年03月:Batman: No Man's Land #1
1999年03月:Batman: Shadow of the Bat #83
1999年03月:Batman #563
1999年03月:Detective Comics #730
1999年03月:Batman Chronicles #16
1999年04月:Batman: Shadow of the Bat #84
1999年04月:Batman #564
1999年04月:Detective Comics #731
1999年04月:Azrael: Agent of the Bat #51
1999年05月:Batman: Shadow of the Bat #85
1999年05月:Batman #565
1999年05月:Detective Comics #732
1999年05月:Azrael: Agent of the Bat #52
1999年05月:Batman: Legends of the Dark Knight #117
1999年06月:Batman: Shadow of the Bat #86
1999年06月:Batman #566
1999年06月:Detective Comics #733
1999年06月:Azrael: Agent of the Bat #53
1999年06月:Batman: Legends of the Dark Knight #118
1999年07月:Azrael: Agent of the Bat #54
1999年08月:Azrael: Agent of the Bat #55


◆No Law and a New Order
90年代のバットマンストーリーを代表するクロスオーバー大作
『バットマン:ノーマンズ・ランド』の邦訳がとうとうスタート!

日本版オリジナルのこの表紙めっちゃカッコイイ……めっちゃカッコよくない?

一年近くに渡り、様々なバットマン関連誌で展開されてきたストーリーなだけあってボリュームも膨大!
この第1巻の時点で全544ページという、邦訳アメコミ過去最大級のページ数を誇っております。
しかもこんな分厚い本があと3冊も控えているというのだから恐ろしい。
ちなみに本書、とにかく分厚いのもあり読みやすさを優先したとのことで、カバー無しのペーパーバックとして刊行されています。
(2011年に刊行された『Modern "complete" editions』が底本)
また小プロのDC邦訳には珍しく解説書も別に付属。

さっそく内容の紹介をしようと思うのですが、このクロスオーバーに至るまでに未邦訳の様々な前日譚があるのでレビューの前にちょっと触れておきたいと思います。
(もちろんいきなり本作『ノーマンズ・ランド』を読み始めても何の問題もないんですが)

まずはバットマン関連タイトル7誌で展開されたクロスオーバー『Batman: Contagion』


この作品は、ゴッサムで起こった細菌兵器“クレンチ”漏洩事件を描いたストーリーであり、その内容は細菌の血清を作るべくバットマンファミリーが世界中を巡って過去に同様の細菌漏洩が起こった際の生存者を捜索するというもの。
本エピソードの中盤部分にあたる『Batman Chronicles #4』だけは実は邦訳済みであり、『ヒットマン Volume1』で読むことが出来ます。

次なるクロスオーバーイベントは『Batman: Legacy』


バットマンらがクレンチに関する謎を解き明かすためにアフリカに向かい、ラーズ・アル・グールとベインに遭遇するというエピソード。バットマンはベインを打ち倒してラーズの陰謀をも阻止するのですが、ラーズとベインが手を組んでいる理由は謎のまま完結します。

次の『Batman: Cataclysm』ではゴッサムシティが大地震に見舞われ、地震対策の不備も相まって数千人の犠牲者を出し、また数十万人が負傷、家までも失う絶望的な状況が描かれています。



その後の『Batman: Aftershock』(TPBは無し?)というストーリーラインでは、人々が震災に苦しむ中、政府によるゴッサム放棄の決定が迫る様子が描かれ、『Road to No Man's Land』(こちらもTPBは無し?)では、バットマンが事業家ブルース・ウェインとして政府の決定を覆すべく奮闘する様が描かれました。

しかしブルースの奮闘虚しくゴッサムの放棄は可決。
ゴッサムシティに通じる全ての橋は取り壊され、政府の厳重な監視下にある『一切の出入りが禁じられた土地』となってしまったのです。
『Road to No Man's Land』に関するもう少し詳しい内容は解説書に掲載されているのでそちらで。

そして本作『バットマン:ノーマンズ・ランド』がスタート。
外界から完全に隔離され、無法地帯と化したゴッサムシティでの派閥の発生、そして熾烈な縄張り争いが繰り広げられる国盗り合戦ともいうべきストーリーが展開する作品です。
果たしてバットマンは、この秩序が崩壊した世界で平穏を取り戻すことができるのか……?

現在のゴッサムシティに残っているのは、貧困層や不法移民、犯罪者、そして自分の意思で滞在する事を決めた者たち。
しかも厄介な事にアーカム・アサイラムの所長、ジェレマイア・アーカムが「囚人達を飢え死にさせることは出来ない」という判断を下した結果、街を去る前に全員釈放してしまったというオマケ付き。
お陰でゴッサムシティは区分化されてギャングに支配されるという事態に陥ったのです。
ただでさえ先の大地震で街が崩壊しているのにいらん事をしてくれよったで!

アメリカ政府に見捨てられ、そこに残った人々はアメリカ国民としての資格は剥奪。
現在のゴッサムに既存の法律やルールなどは一切通用せず、紙幣や金品の価値も急落した世界。
代わりに豆の缶詰や1個のリンゴに菓子、電池やライターなどが大きな価値を持つようになりました。
物々交換ができるならまだ平和なもので、食料の奪い合いは日常茶飯事。何かしら技術を持った市民は、生き残るために力を持つギャング達の元へ自分を売り込みに行く始末。

ゴッサムが無法地帯と化す事を早い段階で予見していたゴードン本部長は、わずかに残った市民を守るため、そしてゴッサムを取り戻すために数少ない仲間とともに街に残り「ブルーボーイズ(GCPD)」と名乗ってこの縄張り争いに参加するのですが、警察組織だった頃と違い法律に縛られずに行動が可能な分、その線引きに悩み苦しむことに。
また本作のゴードンは一向に姿を表さないバットマンに対して「彼は街を見捨てた」と思い込んでいるため、あくまで自分達だけの力でゴッサムを救おうとするなど頑固な一面が強調されています。

縄張りを広げる方向で動き出すバットマン

そのバットマンは、約3ヶ月もの間行方をくらませた後にゴッサムに帰還。
(現時点ではバットマンがそれまでどこで何をしていたのかは謎)
行方をくらませている間にゴッサム市民のバットマンへの畏敬はすっかり消え失せており、またゴッサムが崩壊していることで街の移動ルートを再度学び直さなければいけない状態に。
しかも今のゴッサムはローテク世界に逆戻りしているため、オラクルに頼ってパソコンで敵の情報収集をすることは不可能。

そこでバットマンは昼のゴッサムに姿を表し、自らの頭脳と足を使いながら情報を集め、街に自分の帰還を伝えるタグを残しながら自分の縄張りを増やし、ゴッサムを取り戻さんと行動するのでした。

本作ではロビン達を巻き込まないためにゴッサムの外に追い出しており、アルフレッドとコンビを組みながら昼のゴッサムで活動するという地味に新鮮な光景を拝むことが出来ます。
まあそのロビン達も2巻以降でもっと話に絡んでくるみたいなんですけどね。

この第1巻で活躍するバットマンファミリーは、独自の自警活動を続けるハントレス、動けない自分の代わりに部下を使って情報を集め、街の情報を記録し続けているオラクル、怪我人の救護を行うレスリー、バットマンとは別に街で起こる様々な事件の解決に動いているアズラエル、そして謎の新バットガールの5名。
アズにゃんことアズラエルの活躍がたっぷり拝める邦訳はこれが初めてじゃないだろうか。
コスチュームは過去の邦訳やゲームで馴染み深いこれこれじゃなくて、当時の90年代感あふれる新コスだけれども。

アズラエルととある家族
アズラエルは特にサイドストーリー色が強いものの、割かれている話数が多め
新興宗教の教祖、ニコラス・スクラッチを追いつつ様々な事件の解決にあたっている

もちろんバットマンのヴィランも数多く登場。
ベントリロクイスト(スカーフェイス)はニュータウンを牛耳っており、
精神を病みつつあるブラックマスクはファッション地区を制圧。
トゥーフェイスはダウンタウンの裁判所を活動拠点にしているのですが、コインの結果に従って救護活動に乗り出しているという意外な役どころで登場。
物資が不足しているため恐怖ガスを持っていないスケアクロウはアーク・プロジェクト避難所に滞在しているのですが、何か目的がある模様。
ジョーカーはこんな状況でもバットマンを呼び寄せるために独自に行動中。

ある意味一番厄介なのが、実業家としての手腕を見せ、この状況を利用して自分の支配地域を大規模な闇市場に変えたペンギンでしょうか。
カメラよりマッチが、フェラーリよりも自転車が価値のある世界でも多くの品と人が集まる場所を形成し、街の王にのし上がったのは流石と言うしかない。

この他にも様々なヴィランが登場するのですが、この1巻で特に目立った活躍をするのはこの面々ですかね。
本作『ノーマンズ・ランド』は登場人物がとにかく多く、バットマンのオールスター作品ともいえる内容です。

◆感想
そんな本作『ノーマンズ・ランド』めちゃくちゃ面白かったです。
本筋の縄張り争いも大きな見どころだけど、それ以上に崩壊したゴッサムで生活する極限状態の市民達の人間模様がリアルで読み耽ってしまいました。
ギャングによる支配から解放して自由にしたと思いきや、新たな支配を望む貧困層。
生活の為に家族を捨てる者。
衣食住が保証されると聞き、犯罪に走る者。
怪しい宗教にすがりつく者と実に様々。

思い悩むブルース・ウェイン
犯罪以外の問題も多く発生しているため、思い悩むバットマン

本作『ノーマンズ・ランド』は大作クロスオーバーであり、崩壊したゴッサムが元の姿に戻るまでを描く長大なエピソードなんですが、わりと単独で読める複数のエピソードでストーリーを積み重ねていく構成となっているため、再読性にも優れているコミックだと思います。

個人的には、人々の心の奥底の恐怖心と闘争心を煽らんとスケアクロウが暗躍する『恐怖の信仰』
さっきも書きましたがコインの結果に従い人助けを続けるトゥー・フェイスを描く『運命の反転』
レスリーの元を訪れ、「とある騎士と従者」の話を子供たちに語るアルフレッドを描く『バランス』
愛するゴッサムに昔から住み続け、現在も家に滞在している老人、ウィリアム・S・ライリーの姿を描く『安らぎの我が家』
ゴッサムシティを救うためにメトロポリスからスーパーマンがやってくる『訪問者』
バットマンがアルフレッドから父トーマス・ウェインの昔話を聞く寓話チックなエピソード『灰色のモラル』
生きるために自分の親を捨てる者やギャングと手を組む少年に遭遇し、改めて現実に打ちひしがれるアズラエルを描く『光への第一歩』が特にお気に入りのエピソードです。多いな!
まあ正直ここに挙げた以外のエピソードも全部面白かったんだけど。

気になるノーマンズ・ランド2巻の発売は、本書の帯によると来年になるとのこと。
割とマジで待ちきれない……ノーマンズ・ランドの完訳を再優先して欲しいレベル。
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2 Comments

アウル  

ここぞとばかりにペンギンさんが大成功収めているのに笑いましたw
本書の厚さが今までに買ったどのアメコミよりも分厚く、広辞苑のカバーにしても大差ないんじゃないか?と思えるほどなのには少し唖然としております(^^;
これがあと3冊・・・か(元の5冊より減ったから財布には優しいはずなんですがw)

2014/10/05 (Sun) 22:33 | EDIT | REPLY |   

michael  

>>アウルさん
>元の5冊より減った
記事にも書きましたが、この邦訳版の底本は全4巻の『Modern "complete" editions』ですよー。
全5巻の方はバットマンがメインのタイトルのみの収録なんで、ほぼ全てを網羅したこっちを底本にしてくれて嬉しい限り。
ヒットマンやJLAのタイインは未収録ですけどね。

少なくともヒットマンに関しては2巻以降の邦訳を続けてくれれば読めるんだけどもなー。

2014/10/07 (Tue) 20:27 | EDIT | REPLY |   

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