ツルゴアXXX

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02 2014

アラン・ムーア&スティーブン・ビセット他/スワンプシング

スワンプシング表紙
『まもなく夜明けだ。
 鳥が寝ぼけ眼でさえずる。一羽が応える。
 やがて、すべての鳥がさえずり始める。互いに、昨夜見た夢を語り合う…
 なぜ…なぜ、この地を離れようとしたのか。
 永遠にこの沼を歩いていたい。
 ワニと取っ組み合って沼を転げまわりたい。何度も、何度も…
 私は生きていたいのだ。
 そして、伸びゆこう…いと高きところを目指して…』

“今夜のワシントンの天気は雨だ……”

首都ワシントンのとある高層ビルに一人の男が招かれた。男の名前はジェイソン・ウッドルー、通称フロロニックマン。
彼は、謎の老人の依頼を受け、冷凍保存された“植物怪人”スワンプシング誕生の謎を探りはじめる。
科学者アレック・ホランドは、なぜ植物怪人へと姿を変えたのか?やがてウッドルーが突き止めた衝撃の真実とは……。

時系列の倒置、暗喩、モノローグを駆使したエキセントリックなストーリー展開と常識を打ち破る大胆なキャラクター造形でコミックシーンに衝撃をもたらし、アラン・ムーアが鮮烈なアメリカデビューを飾った記念碑的作品。
アラン・ムーア本人による序文も特別収録!

植物になってしまったらどうしよう!!こんな怪物いやだ!!
これは緑からの警告ホラーだね。――楳図かずお(漫画家)


◆収録作品

1984年02月:Swamp Thing Vol.2 #21
1984年03月:Swamp Thing Vol.2 #22
1984年04月:Swamp Thing Vol.2 #23
1984年05月:Swamp Thing Vol.2 #24
1984年06月:Swamp Thing Vol.2 #25
1984年07月:Swamp Thing Vol.2 #26
1984年08月:Swamp Thing Vol.2 #27


◆ROOTS OF AN EXTRAORDINARY GENTLEMAN
2009年から2010年頃は、もうとにかく色んな出版社からアラン・ムーアの邦訳が出まくっていました。
小プロからは『バットマン:キリングジョーク 完全版』『ウォッチメン』『スーパーマン:ザ・ラスト・エピソード』が出版、ヴィレッジブックスからは『トップ10』が全2巻で、みすず書房からは難解さで有名な『フロム・ヘル』が上下巻で刊行され、ちょっとしたムーア祭り状態。
この『スワンプシング』もおそらくそれに乗っかって、小プロから邦訳された作品になります。

ただ『スワンプシング』自体は80年代~90年代に二作ほど映画が制作されたぐらい(完全にカルト映画扱い)で、日本では今何かしら話題になっていたというわけではありませんでした。


1982年『怪人スワンプ・シング 影のヒーロー』原題:Swamp Thing


1989年『怪人スワンプシング』原題:The Return of Swamp Thing


こちらは1990-1993年のTVシリーズ
『怪人スワンプシング 最後のアメリカン・ヒーロー登場』原題:Swamp Thing


1989年『怪人スワンプシング』のトレーラー
どことなくコミカルなんですがそれは

これらの映像作品はどれもさして評価は高くないようだけども、正直ちょっと見てみたい。
まあとにかく「とにかくムーア作品を訳していこう!」という流れで、ムーアがDCコミックス時代に手がけたややマイナーなヒーロー「スワンプシング」の活躍が拝める事になったのは嬉しい限り。
というか邦訳されたという事自体がスゴイ一冊な気がする。この本。

スワンプシングは、1971年に発売された『House of Secrets #92』という20世紀初頭を舞台としたホラーな読み切り作品でデビューしたキャラクター。
その1年後に舞台を現代に置き換え、主人公をアレック・ホランドという科学者に設定して『Swamp Thing』誌が創刊されることになりました。

このシリーズは#24で終了したのですが、前述した映画化が決まった際に「コミックも復活させてはどうか」という話が持ち上がり、『Swamp Thing』誌の第2シリーズが刊行される運びに。
(当初は「Saga of the Swamp Thing」というタイトルだったものの、後に「Swamp Thing」に改題)
マーティン・パスコというライターが第2シリーズの担当となり、スワンピーの新たな展開を描いていったのですが、徐々に人気は低迷、しかもマーティーは#19で本作を降りる事を決めていたため、編集者は急いで後任のライターを探さなければいけなくなったのです。
そこで白羽の矢が立ったのがアラン・ムーア!
本書『スワンプシング』は、ムーアがスワンプシングを担当していた時期のエピソード7作品を収録しております。

スワンプシングのライターとなったムーアがまず行ったのは、オリジンを大幅に変更してしまうという“ちゃぶ台返し”

これまでの主人公、スワンプシングことアレック・ホランドのオリジンは、
「自身の研究を狙う秘密結社の手によって爆弾で吹き飛ばされてしまい、その際全身に薬品を浴びて火だるまになりつつ沼に飛び込んだ事で、植物と融合し怪人スワンプシングへと変貌してしまった」
というもの。
さらに親友ケーブルには自分と自分の妻リンダを殺害した怪人であると誤解され、元の姿に戻る方法を探しつつ、親友の追跡から逃れていく羽目になるという苦難の旅を描くストーリーです。
なんとムーアはこの設定を#21でひっくり返しちゃいました。

#20でD.D.I.とサンダーランドの連合部隊に追い詰められたスワンプシングは容赦の無い集中砲火を浴びせられ、ついに倒れてしまいます。
サンダーランドはワシントンの自社ビルにスワンプシングを運び込み、アレックの持つ植質組織復元剤の秘密を知るため、植物人間フロロニックマンことDr.ウッドルーを釈放し、スワンプシングの研究に携えさせるのですが……

その結果、スワンプシングはアレック・ホランドが薬品の影響で植物と融合した存在なのではなく、
「本当はアレックは爆発の時点で死亡しており、スワンプシングとは沼の植物が植質組織復元剤の影響で成長を促され、自分の死を知らない彼の意志だけを取り込んだだけの只の植物だった」
という衝撃の事実が判明してしまうのだった!

大胆なオリジン改変
大胆すぎるオリジン改変

当時追いかけていた人は「元の姿に戻る」というストーリーの存在意義が消えてどれだけの衝撃を受けたのだろう。
こんな感じで前回までのストーリーはちゃんと引き継ぎつつとんでもない設定改変を行ったわけなんですが、結果的に作品は大反響を呼ぶことに。
実際この設定で進んでいくストーリーの方が面白いのだから仕方ない。

スワンプシングは自分の妻を秘密結社コンクラーベに殺された記憶も持っているし、人間的な感情もそのまま持ち合わせている。自分を狙う様々な敵と孤独に戦ってこられたのも、「いつの日か人間の姿に戻れるはずだ」という希望があったから。
しかしそれは単なる思い込みに過ぎないことが判明してしまった。自分はアレック・ホランドじゃない、人間ですらない、ただのおぞましい植物の怪物なのだという事を知ってしまう。

……悲劇的すぎる!
いきなり残酷な事実を突きつけられて、スワンプシングが怒りと絶望のあまり暴れだすのも已む無しと言った感じです。
『スワンプシング』はモノローグがかなり多い作品なんですけど、ムーアの文章が流麗なのもあってスラスラと読めるのも魅力。

本書は大きく分けて二つのエピソードを収録。
フロロニックマンことDr.ウッドルーとの戦いを描く#21-24、そして悪魔エトリガン・ザ・デーモンとの共演回である#25-27。

前半のメインヴィランであるフロロニックマンは、植物たちの世界「緑の世界」に繋がろうとして逆に取り込まれ、人間性を失い植物の意志に完全に呑まれてしまいます。
草木の苦しみの代弁者を名乗り、人間たちを「肉ども」と称して世界中の植物を操り、危険な早さで酸素を吐き出させるという恐ろしい大事件を引き起こすのでした。

スワンプシングもDCユニバースの住人なので、大事件が起こるとなれば他のヒーローが行動しないはずはない。
そういうわけでホラーテイストのストーリーを邪魔しない程度にジャスティス・リーグも若干話に絡んできます。ホントに顔見せレベルですけど。

顔に影があるJL
顔に物凄く影がかかっているジャスティス・リーグの面々
ストーリーの雰囲気を保つためか作中では『ジャスティス・リーグ』という固有名詞は一切使われない

本書後半のエトリガン・ザ・デーモンとの共演回は、エリシウム自閉症児対策センターに現れた、不気味な悪魔モンキーキングと対峙するエピソード。
自閉症児たちが書いた「猿の絵」やモンキーキングのグロテスクな変身姿など、よりホラーさが強調された一編となっています。

◆感想
アラン・ムーアの描くホラーアクションが存分に堪能できる一冊。
しかし#21で改変された設定とダークな展開で読者に衝撃を与えた反面、#25ではスワンピーがヒロインのアビゲイルとわりと楽しそうにイチャイチャしてる場面もあったりして、「ストーリーの方向性どうなってんの?」と思わなくもないシーンがあったり。
一つの話としては#21-24だけで纏まっている気もする。

美人ヒロインとイチャイチャ
普通に美人ヒロインとイチャイチャしちゃってお前

あとムーアが設定を一新した#21から収録されてはいるものの、さすがにムーア担当期の作品がこの一冊に網羅されているわけではなく、作中で貼られた伏線も本書だけでは回収されきっていません。
(長期連載の一部を訳しただけだから当然なのだけれども)
露骨に次回への引きがあるので、続きのエピソードが気になって仕方がない。
邦訳予定が無いのならば、解説でもう少し後の展開についてフォローして欲しかったかも……

    
邦訳版の底本となっているのはこの『Saga of the Swamp Thing』の第1巻
(厳密には98年に出たバージョンが底本。原書は#20から収録)
向こうでは2巻以降も出版されている

個人的には本書だけでもスワンプシングの物語は充分楽しめたので満足はしてるんですけどね。
スワンプシングを全く知らない人が事前知識なしにいきなりコレを読んで楽しめるかどうかはちょっと分からないですが、ムーアの描く本作のストーリーや心理描写にはかなり引き込まれるものがあるので、少しでも興味が湧いたのならお勧めしたい作品です。

◆余談
前述したように本作には『ヒットマン』にもゲストとして顔を見せた悪魔『エトリガン・ザ・デーモン』も登場しているのですが、あの大きな特徴である「常に韻を踏んだセリフ回し」は行っていません。

韻を踏むデーモン

原書では韻を踏んで話していたっぽいので、訳すのがかなり難しいとはいえ再現されていないのがちょっと残念。
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3 Comments

森野大吉  

本も勿論持っておりますが、映画版も二作とも観たことがあります。私の住む関西ではアメコミ作品のTV放送が多く、一年ほど前にはTVシリーズのフラッシュが放送されていました(しかも再放送)。
で、お尋ねしたいのですが、一度、JLAの映画が放送されていたのですが、アレはいったい何だったのでしょう。もし、御存じならお教えください。長年の謎なので。

2014/06/04 (Wed) 19:17 | EDIT | REPLY |   

michael  

>>森野大吉さん
1997年の『JUSTICE LEAGUE』ではないでしょうか?
アレはテレビ映画であって、一応日本でも「ジャスティス・リーグ」という題で放送されていたと聞きます。
(ただ僕は見たことないんですけど)

それはそうと森野さん。コメントを貰えるのは嬉しいんですが、あんま一日に色んな記事に連投されたり、記事内容とあまり関係のない質問をされてもちょっと反応に困るかな…

2014/06/04 (Wed) 22:36 | EDIT | REPLY |   

森野大吉  

うう…ごめんなさい、反省します…。

2014/06/05 (Thu) 08:30 | EDIT | REPLY |   

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