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02 2013

ブライアン・アザレロ&J.G.ジョーンズ他/ビフォア・ウォッチメン:コメディアン/ロールシャッハ

ビフォアウォッチメン1巻表紙

「そんなに世界を敵に回したいか」
「だから何だ?愛じゃ平和は守れねぇぜ。恐怖が平和を守るのさ」
「お前は病んでる」
「ああ、だが正論を言ってる。
 人には役目があんだよベンウェイ。
 俺は実務担当さ。おめぇやおめぇの組織は…ファック野郎の群れだ。
 人生は戦争さ。勝てねぇなら負けるしかねぇ。
 勝敗の問題じゃない。問題は、主導権が誰の手にあるかだ」


アメリカンコミックスの金字塔『ウォッチメン』の前日譚を描いた注目作、ついに登場!
第1弾は、シリーズを象徴する人気キャラクター、コメディアンとロールシャッハ。

コメディアン
時は1962年。若きケネディ大統領が国を率いた希望に満ちた時代。我が世を謳歌するコメディアンだったが、突然の大統領の暗殺を機に、全ての歯車は狂い始める。

ロールシャッハ
時は1977年。ベトナムを経たアメリカには荒んだ空気が満ちていた。それでもなお孤独な戦いを続けるロールシャッハの前に、ベトナム帰りのかつてない強敵が立ちはだかる…。


◆関連作品過去記事
【ウォッチメン(Watchmen)】

◆収録作品

2012年08月:Before Watchmen: Comedian #1
2012年09月:Before Watchmen: Comedian #2
2012年10月:Before Watchmen: Rorschach #1
2012年11月:Before Watchmen: Comedian #3
2012年12月:Before Watchmen: Rorschach #2
2013年02月:Before Watchmen: Comedian #4
2013年02月:Before Watchmen: Rorschach #3
2013年04月:Before Watchmen: Rorschach #4
2013年04月:Before Watchmen: Comedian #5
2013年06月:Before Watchmen: Comedian #6


◆INTRODUCTION
ビフォア・ウォッチメンプロモポスター
リー・ベルメホによるプロモーションポスター

1986年~1987年にかけて描かれた、全12章からなるアメコミの名作『ウォッチメン』
そんな名作の再展開を模索していたDCコミックスは、2012年2月にウォッチメンの前日譚となるシリーズ『ビフォア・ウォッチメン』を発表!
ウォッチメンのファン達はこの衝撃的なニュースに驚き、戸惑いました。
しかもオリジナルを手掛けた原作者アラン・ムーアはこの企画に「金は要らないからやめてくれ」「私が25年も前に書いた作品に未だに依存するのか」と不快感を露わにするという事態に。

【DC Plans Prequels to Watchmen Series】
【Watchmen prequels announced, with Gibbons’ blessing, Moore’s scorn】

原作者が嫌がっているのに出版が決定するというのは一般的な感覚としては色々とありえない展開ですが、作品の権利が基本的に会社にあるアメコミだからこそこういう事ができちゃうんですよねー…
しかしウォッチメンのアートを担当したデイブ・ギボンズは「ビフォア・ウォッチメンが成功することを願っている」と寛大な態度を示していた模様。

そんなわけでビフォア・ウォッチメンにはオリジナルを手掛けたムーアとギボンズは全く関与せず、現在第一線で活躍している多くのライターとアーティストが携わる形で本作の制作がスタート。
そして全9作(『ミニッツメン』、『シルク・スペクター』、『コメディアン』、『ナイトオウル』、『オジマンディアス』、『ロールシャッハ』、『DR.マンハッタン』、『モーロック』、『ダラー・ビル』)が発表され、エピローグの制作がポシャるという事態があったりしたものの、無事シリーズは完結したのでした。

そんな良くも悪くも話題の作品が、ついに日本でもヴィレッジブックスから刊行!
原書はハードカバー版こそ既に刊行されていますが、日本のソフトカバー版での刊行は実は世界初。
原書ハードカバー版と同じく、各ライターが担当したエピソードを1冊に纏めての刊行となっています。

そんなビフォア・ウォッチメン1巻目、コメディアン編とロールシャッハ編を手掛けるライターはブライアン・アザレロ!
邦訳では主にバットマン関連のタイトル(『ジョーカー』、『バットマン:ナイト・オブ・ベンジャンス』など)で見かける事が多い方ですね。

元々一つの物語として綺麗に完成しているのがウォッチメンという作品。
ビフォア・ウォッチメンのストーリーは、基本的に物語のスキマを埋めつつキャラを掘り下げていくというのが中心な感じ。前日譚だからそれしか書きようがありませんが。

コメディアン編のストーリーは、本編であまり詳細に描かれていない1962年~1968年にかけてのコメディアンの6年間を描く内容。
コメディアンとケネディ兄弟との親しげな関係、そして多くのページを割いているベトナム戦争での過酷な日々を描写し、コメディアンがウォッチメン本編で描かれる“コメディアン”となるに至った大きな転換点を垣間見ることが出来る作品になっています。

愛国者なんだよ
コメディアンことエディ・ブレイクは如何にして本編のような“コメディアン”となったのか

作中では前線で戦う兵士たちの苦悩などを事細かに描いているため、ヒーロー物というよりは『戦争映画』のような印象を受ける一作。
アメリカ史に詳しくないとやや難解に感じるシーンやセリフが多いため、付属の解説書は熟読する必要アリです。

ロールシャッハ編のストーリーは、1977年のアメリカを舞台にロールシャッハが街を騒がせている連続殺人犯、通称『詩人』を追いかけるという内容。
つまり、ウォッチメン本編との関連性はかなり薄いお話になっています。
まあ…ロールシャッハに関しては本編では狂言回し的な立場であり出番も多く、オリジンなども綿密に描写されており改めて掘り下げる内容があまり無いんで、こういう本編に影響を与えないシナリオになるにも止むなしなのかなーと。

デニーロとシャッハさん
映画『タクシードライバー』の主人公(ロバート・デ・ニーロ)…っぽい人とまさかの共演!

シャッハさんの暴力的な尋問シーンや格闘シーンが堪能できる、バイオレンス度が高い一編だ!
コメディアン編とは異なり、1977年のベトナム以降の荒廃したアメリカに焦点を当てて描かれています。

◆感想
正直言うと、個人的にはあんまり面白い作品ではありませんでした…
駄作とまでは言いませんけど、本作はウォッチメン本編での描写と若干の齟齬も生じています(コメディアンがケネディ大統領の暗殺に関与していない、モーロックがドラッグの密売に手を染めていない等)し、こう…2次創作のアンソロやSSを読むような気持ちで手に取るのがベストかもしれません。

ただ、これまでの邦訳で読んだブライアン・アザレロの作品は個人的に結構好きだったんですけども、本作の脚本はどうにもなぁ…
前述したようにコメディアン編は、ケネディ兄弟との関係やベトナム戦争を中心に描いていく渋い作風であり、様々なアメリカ現代史を絡めて展開していく内容。
ウォッチメン本編も史実とは若干異なるアメリカ史を交えて展開するストーリーでしたが、あっちの話のメインは「ヒーロー狩りを行っている犯人の調査と、その裏に隠されている巨大な陰謀」を暴く内容なので、かなり作風は異なります。
そういう面でもコメディアン編はかなり人を選ぶ作品じゃないかと。
解説などを読みアメリカの歴史的背景を学んだ上で再読すると気づかされる点も多いので、読み解き甲斐がある一作なのは間違いないのでしょうが。

しかしロールシャッハ編はあまりフォローできないヒドイ脚本!
舞台となるのが1977年以降という事は、既に75年に起こったあの『少女誘拐事件』をきっかけに甘さの抜けた“ロールシャッハ”になっていたはず。
そんな彼が本作では、油断に油断を重ねてチンピラに敗北を喫してばかり。しかもそれは最終話まで続き、窮地に陥った後は唐突にご都合主義な展開が起こって(ここら辺の流れが本当に意味不明)脱出するという、とことんロールシャッハらしくない雑な切り抜け方。

全編通してだらだらと進み、特に盛り上がりもなくあまり救いのないエンドで締め括られるという、読了後に何も残らないストーリー。
あとロールシャッハには「女性に対しては寡黙で内気な態度を見せる」という設定がある(ウォッチメン本編のニューヨーク市警の資料より)のにもかかわらず、そんな設定を忘れたかのように食堂の女性店員と普通に会話したりディナーに誘ったりする描写がちょくちょく挿入されてもう意味わからん!
どうしたんだロールシャッハ!女性をディナーに誘うのは事件の解決を図ってからの方が良くないかロールシャッハ!
しかもラストでは唐突に冷たくなるし!
そりゃヴィレッジブックスの公式ツイッターもコメディアン編ばかりを推すわけだわ!

…とはいえ解説では特に触れられていませんが、ロールシャッハの日記の記述のモデルとなったニューヨークの実在の殺人鬼「サムの息子」を元ネタにしたっぽい殺人犯を追うという展開は発想自体は面白いと思いました。
(ちなみにサムの息子事件は1976年の7月)
ロールシャッハ編で描写されている要素(殺人鬼やらポルノやらディスコブームやらニューヨークの大停電やら)は映画『サマー・オブ・サム』を見ておくと楽しめる…かな?多分。
ここら辺のネタとリー・ベルメホのアートはロールシャッハ編でわりと好きな部分です。

ちょっと後半不満点を挙げて熱くなっちゃいましたけど、来年2月に出る『ミニッツメン/シルク・スペクター』編はまたライターが異なり、ダーウィン・クックという方。
ビフォア・ウォッチメンは様々なライターが脚本を手掛けているタイトルであり、全部が全部微妙というわけではないと思うので、今後のタイトルに期待することにします。

あ、でもカバーにあるライターとアーティストの紹介分は妙にユーモアたっぷりな内容で面白かったな…
 
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4 Comments

アウル  

羨ましいです(´・ω・`)
自分、アマゾンで予約したのに未だ発送すらされず(よくよく見たら2~4週間待ちって・・・(il`・ω・´;)
ま、逆に考えたらそれだけ期待値高かったってことですよねw
早く来ないものかぁ~。

2013/12/03 (Tue) 16:17 | EDIT | REPLY |   

久仁彦  

ジム・リーとリー・ベルメホの予告イラスト見た時点で
「これだけでこの企画の価値はあった!」と満足しちゃったので
案外楽しめちゃいました(期待値低すぎ)。

ロールシャッハ編は変に捻らずベルメホ画のシャッハさんが拝めただけで満足…
とは言えないデキですが、ジワッと広がった血の模様がロールシャッハ模様に
見えたりする演出は好き。

個人的には『Dr.マンハッタン/ナイトオウル』編が楽しみですねー。
こっちでもシャッハさん(ウォルター・コバックス時代含む)が出るのでその辺りも期待。

2013/12/03 (Tue) 17:25 | EDIT | REPLY |   

サム・ライス  

michaelさんがここまで苦言を呈されるとは。
少プロが頑なに出さなかったのも頷ける出来のようですね。

2013/12/03 (Tue) 23:40 | EDIT | REPLY |   

michael  

>>アウルさん
本書はかなり売れているみたいで、ヴィレッジの邦訳アメコミの中で『過去最高』の初動だとか。
アマゾンでは品切れが続いているようなので、本屋で買った方が早いかも?
(ちなみに僕も本屋で購入しました)

>>久仁彦さん
ベルメホのアートの素晴らしさを再認識できる一作でした!

>個人的には『Dr.マンハッタン/ナイトオウル』編が楽しみ
僕は次出るミニッツメン編ですかねー。
本編では「多くの面々が壮絶な最期を遂げた」という印象ばかりが強いので、輝かしい時代の彼らの姿を見てみたいとは思ってました。
あとダーウィン・クックのアートもなんだか好み!ていうかこの人脚本とアートの両方を手掛けてるんですね。
http://goodcomics.comicbookresources.com/2012/07/12/and-the-superhuman-review-before-watchmen-minutemen-2/

>>サム・ライスさん
まああくまで僕個人の感想なので…特にコメディアン編はハマる人はハマるタイプの作品でしょうし。
あと記事にも書いたようにビフォア・ウォッチメンは作品ごとにライターが異なりますから、全部が全部アレだという事は無いと思います。
だから本当につまらないかどうかは実際に購入して、是非君の目で確かめてくれ!(Vジャンプ攻略本風に)

2013/12/05 (Thu) 20:19 | EDIT | REPLY |   

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