ツルゴアXXX

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30 2013

チャールズ・バーンズ/ブラック・ホール

ブラック・ホール表紙

『心臓が激しく脈打ち始めた。
 何を見ておかしいと感じているのか自分でもわからない。
 でもすべてが変だった。
 頭が真っ白になり、正面の玄関に向かって走った。
 俺の自転車は置いたままの場所にあった。
 これをひっつかんで、このまま仕事に行ってしまいたい。
 ここにいたくない。こんなことしたくない。
 何故俺なんだ?どうしてこんなことにならなきゃいけない?』


1970年代中頃、アメリカ・シアトル郊外で10代の若者のみが感染する謎の伝染病が発生していた。
おぞましくもグロテスクな症状を呈するこの病気は、性的接触により感染し、治療法は存在しない。
思春期の若者が抱える不安、哀しみ、絶望……
やがて彼らの悪夢が頂点に達した時――

闇が暴走し始める。


◆【公式PV】

◆BLACK HOLE
6月発売の小プロの邦訳アメコミで、個人的に一番発売が待ち遠しかったのがこの作品『ブラック・ホール』
邦訳予告がなされたのが去年の11月というものあって本当に長かった!
(小プロの非公式アカウントで突如「暗黒の穴」と意味深な呟きをするというかなりボカした表現で告知されていた)

チャールズ・バーンズの描く黒白のコントラストがハッキリした強烈なアートは強く惹かれる物があります。
彩色した絵もこれまた魅力的
それにオルタナティブコミックの邦訳自体がかなり貴重ですからね!久々にこの手のコミックが読めて嬉しい。

「そもそもオルタナティブコミックって何?」と聞かれると結構説明が難しかったりするので、下記の小プロの公式ブログを参照してください(ブン投げ)
【“オルタナティブコミック” とは何か?】

不気味な街

『ブラック・ホール』1995年から2005年までの間に12冊のリーフで発表され、後にハードカバーの単行本に纏められた作品。
といってもこの邦訳版はソフトカバーですけどね。
10年もかけて執筆された長編であり、おかげでこの本は372ページのとてつもなく分厚い1冊になってます。

公式サイトのあらすじは漠然としすぎているように感じたので、まずはストーリーの序盤の部分をざっくりと紹介。

◆STORY
キース篇

ドラッグを楽しむキース

誰が呼び始めたのかは分からない、『プラネット・ゼノ』と呼ばれる森の中で、キースが仲間たちと一緒にドラッグを楽しんでいたその時、彼は人の気配を感じた。
仲間と一緒に森の奥深くへ様子を見に行くと、そこには妙なテントが張られていた。
テントにある荷物を漁る仲間たち。キースはなんとなしにその場を離れ、周囲の様子を見に回る。
そしてキースは、木に引っ掛かっていた人間の皮膚を発見する。
それは少女の皮膚であり、脱皮したかのような形で捨てられていた。
皮膚を眺めているうちに悲しい気持ちがこみあがり、気分が悪くなってしまうキース。
うろつくのを止めてその場を離れようとした矢先、突然人の影が現れる。

感染した若者

恐怖に襲われるキース。
立ち去ろうとして周囲を確認すると、他にも多くの人影がある事に気付く。
なんとかその場から逃げだし仲間たちの元に戻ると、彼らはテントの中である物を発見していた。
それは同級生のホルストロムのイヤー・ブック(1年間の学校生活を纏めた記録集)だった。
『プラネット・ゼノ』では、謎の奇病に感染した若者たちが、社会から隠れるために集団生活をしていたのである。

それからは仲間と一緒にあのテントの付近に近づくことはしなくなったが、プラネット・ゼノで隠れてドラッグを楽しむ事はやめなかった。
そしていつものように仲間と駄弁っていると、仲間の一人が「クリスが例の奇病に感染した」という話をしだす。
あの奇病の唯一の感染経路はセックスをする事。
憧れの娘がそんな病気にかかったことに戸惑いを隠せないキース。
彼は少しその場を離れ、森の奥深くに向かうのだが、そこで何故かクリスに遭遇してしまう。

クリス篇

クラスのマドンナ、クリス。
彼女は今、巷で流行している奇病に感染してしまっていた。
全てのきっかけはパーティーでロブという男と知り合った事。
ロブはとても魅力的な男で、クリスは何としても自分だけのものにしたいと考えていた。
パーティーを離れ、墓地のベンチに誘い出すクリス。
ワインを飲んだ勢いに任せてクリスはロブに迫るのだが、彼女はその時にロブが言いかけた言葉をしっかりと聞こうとしていなかった。
全てが終わってから、クリスがロブの首にキスしようとした時、彼女は『奇妙な何か』を発見する。

人面ソ的な何か

ロブは『感染者』だった。
この日を境に、クリスの普通の日常は終わりを迎えてしまう。

◆感想
僕はこの作品、読む前は公式サイトなどに掲載されていたあらすじと画像検索で出てくる不気味な1シーンを見て、グロシーン目白押しの不条理ホラー展開がバンバン飛び出すコミックと思っていたのですが全く違いました。
『ブラック・ホール』では終始暗い雰囲気が漂っている青春群像劇と言えるストーリーが描かれていくのです。
実際バーンズも作中で描いている奇病による突然変異は、思春期から青年期へ移行していくメタファーとして読むことができるのだと述べています。

中盤からのざっくりとした展開ですが、まずクリスに片思いしているキースは、クリスが感染者になった事を知り、彼女の世話を焼いて距離を縮めようとするのですが、その関係が進展することは無くやきもきしてしまいます。
そしていつものように仲間たちと一緒にドラッグを楽しんで現実逃避しようと、ドラッグを売ってくれる大学生たちの元を訪れるのですが、そこでキースはある感染者の女性、エリザと知り合い、少しずつその中を深めていきます。

一方クリスは町を出る決心を固めてロブと話し合い、お互い生活に必要なものを持ち出して、二人で海の近くの森にテントを張り、感染者同士のカップルによる新生活を始めることに決めるのです。
ロブは学校に通いながらの二重生活、クリスは日中テントの周囲でのんびりするという自由気ままな生活を送っていきます。

そして、プラネット・ゼノで集団生活をしている感染者たちが両者のストーリーに密接に絡んでいくのです

漠然とした不安を抱えながら生きていく若者たち。
吸い込まれるように読みふけってしまいました。

ちょっとネタバレ的発言かもしれませんが、この作品では作中に出てくる奇病についての謎が開かされたりとか治療法が見つかったりするとかのような、そういう展開は一切無いです。
厳密にはリーフで発表されていた時には、『この病気は10代の若者にしか感染しない』という事が言及される描写(単行本ではあらすじで解説されるのみ)や、この病気が治る可能性がある事が判明するシーン、病気に感染した若者が街を追われた結果死亡してしまうシーンなどが存在していたようなのですが、単行本には未収録。

「チャールズ・バーンズは完璧主義者なため、考えがあって未収録にしたのではないか」と訳者あとがきにはあるのですが、そんなシーンがあるのだと知ってしまうと、やっぱり未収録シーンも読みたくなってしまいます。
…わざわざ未収録にしたのだから、実際読むと蛇足なシーンなのかもしれませんけどね。

ブラック・ホールの終焉

余談ですが、本作、実は映画化の予定があるとか。
メガホンを取るのは『セブン』『ドラゴン・タトゥーの女』を撮ったデヴィッド・フィンチャー
本書が出版された理由の一つには『映画になるから』というのもあったのかもしれませんね。
…といっても、2008年に情報が出て以来これといって続報が無かったりするのですが。

【性交渉によって感染する謎の疫病がまん延!デヴィッド・フィンチャー監督の新作ホラー】

◆ルパート・サンダース監督によるショートフィルム版ブラック・ホール

『スノーホワイト』、『攻殻機動隊(2017年に公開予定)』を手がけたルパート・サンダース監督が2014年に制作したもの。
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