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21 2012

ブライアン・オーガスティン&マイク・ミニョーラ他/バットマン/ヘルボーイ/スターマン

ミニョーラバッツ

“豊富な知識と経験に裏付けされた自信を持ちながらも、
 どこか弱さを持った存在。
 完璧を目指しながらも、非常に徹しきれない優しさが、
 彼の描くバットマンからは感じられる。
 そのバットマン像は、他の作家のそれとは異なる場合もあるだろうが、
 ミニョーラ自身の正義感やヒーロー像が反映されている以上、
 マイク・ミニョーラという個人の一部が投影されている以上、
 異なって当然なのである。”


シックホラーの傑作『ヘルボーイ』で、全世界のコミックシーンの話題を独占した、鬼才マイク・ミニョーラ。コミック史に残るアンソロジー『ブラック&ホワイト』で、その魅力を改めて世に知らしめた。闇の騎士バットマン。現代アメコミシーンを代表する、最高のアーティストとキャラクターが手を組んだ珠玉の名作3編を日本オリジナル編集!ミニョーラの過去と現在、バットマンの多様な魅力、本場アメリカでも実現していない豪華なラインナップがここにある。


◆収録作品

1989年02月:Batman: Gotham by Gaslight
1993年11月:Batman: Legends of the Dark Knight #54
1999年01月:Batman/ Hellboy/ Starman #1
1999年02月:Batman/ Hellboy/ Starman #2


◆バットマン:ゴッサム・バイ・ガスライト


ガスライト

“よぉ ボス。はるばる来たぜアメリカへ。
 ゴッサムよこんにちは、だ。
 噂通りの新天地だな。道も黄金で舗装してあらぁ…
 だが俺が来たからにゃ真っ赤に染まるぜ。
 俺のナイフは鋭いぞ、商売女は気をつけるがいい。ハハ”


1986年の『ダークナイト・リターンズ』に始まる熱狂的なバットマンブームは、短期間の間に数々の名作を生み出した。『ダークナイト~』の作者であるフランク・ミラーが再び手掛けたオリジンストーリー『イヤーワン』。稀代のストーリーテラーであるアラン・ムーアが宿敵ジョーカーの深層に踏み込んだ『キリング・ジョーク』。壮絶なまでのアートとストーリーでファンの度肝を抜いた『アーカム・アサイラム』。さらには『ザ・カルト』『サン・オブ・デーモン』『デス・イン・ザ・ファミリー』など、80年代末期のコミックシーンはバットマンに独占されたも同然だった。そんな中、異色作中の異色作として発表されたのが、1989年の『ゴッサム・バイ・ガスライト』だったのである。

この作品がまず注目を集めたのは、その時代設定だった。それまでのバットマン作品は、常に現代を舞台にしたものであり、過去や未来を舞台にしても、現代の延長線上である事に変わりなかった。だがこの『ゴッサム~』は、大胆にも19世紀末のゴッサムシティを舞台にしていたのである。バットマンことブルース・ウェインの祖先が主役なのではない。もし19世紀末にバットマンがいたらという仮定の上で描かれた物語だったのだ。

それまでにも、バットマンが過去や未来に行くストーリーはあった。だが、そのバットマンはあくまでの現代のバットマンであり、完全に時代設定を変えて、しかも1冊の作品として出版されたケースは、これが初の試みだったのである。

当初は、話題性のみが先行していた『ゴッサム~』だが、発売されるや、読者はその完成度の高さに絶賛の声を上げた。アーティスト、マイク・ミニョーラの描く19世紀末の世界があまりに見事だったからである。産業革命を経て、文明の時代へと移り往く狭間の時代。大都市が形成され、同時の都市の闇が生まれた時代。ガス灯のほのかな光が、その闇を照らしていた時代。綿密なリサーチを行い、さらに独自の影の描写を追求してきたミニョーラの筆致は、見事にその時代を描き切っていたのである。

幼い頃、強盗に両親を殺され、犯罪への復讐のためにバットマンとなる道を選んだ若き大富豪ブルース・ウェイン。その彼を支える忠実なる執事アルフレッド。バットマンの最大の理解者であるゴードン本部長。物語の枠組みは、通常のバットマンのものと変わらない。愛車バットモービルや最新兵器を満載した万能ベルトは当然ながら登場しないし、コスチュームも時代を反映したものになっているが、それだけでは、単に奇をてらった作品になっていただろう。

時代背景を変えるという試みだけでは、この作品の成功はありえなかった。ミニョーラが全身全霊をこめて現代に蘇らせた古の時代の空気こそが、『ゴッサム~』を名作とならしめたのである。そしてそれは同時に、数ある若手アーティストだったマイク・ミニョーラが、スターへの階段を上がる第一歩でもあったのである。


ミニョーラバッツ収録1本目はイキナリのエルスワールド物。
舞台は19世紀のゴッサムシティ。もしこの時代にバットマンがいたら?という設定でストーリーが展開していきます。
19世紀という時代に合わせたデザインになっているバットマンのコスチュームも必見。

旅を終えてゴッサムシティに戻ってきたブルース・ウェイン。
バットマンとしての活動再開を決意したその直後に、ゴッサムシティで切り裂きジャックの手口に酷似した連続殺人事件が発生。
独自に調査を進めるも一向に手がかりは掴めず、ついには何者かに嵌められブルース自身が警察に殺人事件の容疑者として拘束されてしまうというストーリー。

探偵物としてのバットマン作品が楽しめる一作。
この頃のミニョーラのアートは極端な陰影や独特なデフォルメがまだまだ抑え目な感じです。
ちなみに解説ページには他のエルスワールドのバットマン作品の紹介(続編タイトル『マスター・オブ・フューチャー』、フランス革命を舞台にした『レイン・オブ・テラー』、女性のジョーカーが登場する『スリルキラー62』)があり。

◆バットマン:レジェンズ・オブ・ダークナイト#54“聖域”
レジェンズ
“夜の闇の中、私に明かされたのは
 我々の知る世界の裏にも世界があるという事実だ。
 容赦なき、残酷な啓示だった!”
 私は人の視覚の裏に潜むもの達を確かに見た。
 悟りだった”

先に、バットマンは作家個人の価値観を投影できるキャラクターだと書いたが、この『レジェンズ・オブ・ザ・ダークナイト』はまさに、作家がそれぞれのバットマンを描くために用意されたシリーズである。

そもそもバットマンのレギュラーシリーズは、デビュー誌である『ディテクティブコミックス』と、その名を冠した個人誌『バットマン』の二誌を中心に展開されてきた(『ディテクティブ~』は、探偵物コミックの専門誌としてスタートした雑誌で、バットマンの登場は1939年5月の#27においてであった。ちなみに『バットマン』のスタートは1940年)。

その後、スーパーマンとのコンビでの活躍を描いた『ワールズ・ファイネスト』、毎回異なるヒーローとタッグを組んだ『ブレイブ&ボールド』、スーパーマン、ワンダーウーマン、フラッシュら、DCコミックスの人気ヒーローとチームを結成した『ジャスティス・リーグ・オブ・アメリカ』と、その規模を拡大していったが、『ディテクティブ~』と『バットマン』の二誌が基本である事に変わりはなかった。
この体制は実に50年近くも続いたが、バットマン人気のあまりの過熱ぶりに、DCコミックスは新レギュラータイトルの創刊を決定。こうして1989年11月に、当時の第三のレギュラーシリーズとしてスタートしたのが『レジェンズ~』だったのである。

待望の新シリーズとして始まった『レジェンズ~』だが、その性格は先行二誌とはかなり異なるものだった。『ディテクティブ~』と『バットマン』は基本的に独立したシリーズだったが、どちらも現代を舞台に、毎月ストーリーが進んでいくという点では同じだった。だがこの『レジェンズ~』は、メインのストーリーの流れとは無関係に、担当作家が1~4回程度のショートストーリを連載するという形式になっていたのである。

これは、毎月のレギュラーとしては確保できない人気作家に、短期集中連載という形でバットマンの物語を描かせるための措置だったと考えられるが、作家にしてみれば先行二誌の流れにとらわれずに自由に作品を展開できるという形となり、その結果、ユニークな作品が続出する事となった。

こうして『レジェンズ~』には、グラント・モリソン、スコット・ハンプトン、ホセ=ルイス・ガルシア・ロペス、テッド・マッキーバー、クリス・バチャロなどの人気作家が参加、玄人受けするタイトルとして高い評価を得た。そして、1993年11月発売の#54の作家として招かれたのが、トップコミックスで映画『ドラキュラ』のコミカライズを終えたばかりのマイク・ミニョーラだったのである。

先の『ゴッサム・バイ・ガスライト』で高い評価を得たとはいえ、本来のバットマンを描くのはこれが初めてで戸惑いもあったというが、この作品では原作にも挑戦し、後の『ヘルボーイ』誕生の布石にもなった。1冊読みきりの短いストーリではあるが、彼のその後の方向性を決めたという点で、極めて重要な作品と言えるだろう。


殺人犯・ロウサーを追いかけて墓場にやってきたバットマン。
取っ組み合いになった際に不慮の事故でロウサーを死亡させてしまう。
そしていきなりの場面転換。
バットマンは突然地下墓地に迷い込み、オスリック・ドルードと名乗る謎の人物に遭遇するのであった。

こちらはホラー風味な一作。
理屈では説明できない出来事に遭遇してしまったブルースがラストシーンで「あの出来事はただの悪夢」という事で片付けてしまうのが印象的。
ある種これも黒の事件簿ですね。
バットマンというよりはヘルボーイ寄りの作風なのかな?と思いました。

◆バットマン/ヘルボーイ/スターマン#1、#2
ヘルボーイ

「魔術に関しては君の方が詳しい。
 君は私が生まれる前から、魔術に接している」
「そりゃ確かにそうだが…
 あんたはこの街を仕切ってんだろ。
 この奇天烈な街をな、大したもんだぜ」

「奇天烈?君が、記録通りの人生を送ってきたのなら、
 驚くには値しないと思うがね」
「ま、誰しも自分の事は棚に上げたがるもんさ」
「言えてるな。住んでいる世界が違うという事か」


これまでにも述べてきたように、バットマンの魅力はその多様性にあるが、その魅力が最大限に活かされるのが、クロスオーバーの分野である。

普段、顔を合わせないヒーローが共演するクロスオーバーでは、その組み合わせが作品の成功を左右する最大の要因となる。だが、相手の魅力を引き出し、自分の特徴もアピールできるヒーローとなれば、その数は限られてくる。異色の顔合わせというだけでは、優れたクロスオーバー作品にはならないのだ。そのクロスオーバーの分野で、数多くの名勝負を演じてきたのがバットマンなのだ。

DCコミックスのほとんどのキャラクター、他社では、ハルク、プレデター、ジャッジ・ドレッド、スパイダーマン、デアデビル、スポーン、キャプテン・アメリカ、エイリアン、パニッシャー、Xメン。これ程までに多様な相手と共演してきたヒーローは、バットマンをおいて他にない。

アメリカンコミックスを代表するベテランヒーローであるバットマンだけに、自然と挑戦受ける立場に置かれるが、バットマンは肉体的には常人である。超能力を持つ相手との共演では、当然ながら分が悪くなる。そのパワー的なハンディを、超人的な意志の強さ、プライドの高さで克服していく様が、醍醐味となって行くのである。同じベテランヒーローでありながら、パワーの面でいかなる相手も凌駕してしまうスーパーマンとのクロスオーバー作品少ないのは、そこに原因があると言えるだろう。相手の魅力を引き出せるキャラクターでなければ、クロスオーバーは成り立たないのだ。

今回の『バットマン/ヘルボーイ/スターマン』においても、オカルト絡みの事件であるにもかかわらず、バットマンは最初、その方面の専門家であるヘルボーイに道を譲ろうとしない。ゴッサムシティで起きた事件は自分で解決するという彼のプライドの現れだが、ヘルボーイの実直さが徐々に彼の頑な心を解きほぐして行く。バットマンを近寄りがたい冷徹な男として描くことで、ヘルボーイの実直さが生きてくるのであり、ヘルボーイに感化されることで、バットマンの人間的な魅力が際立ってくるのである。

最後に、もう一人の共演相手となるスターマンについてだが、彼はスーパーヒーローの可能性を拡げたとして、高く評価される新人ヒーローである。40年代に活躍していた初代スターマンの息子なのだが、家庭を省みなかった父に反発し、成り行きで父の跡を継いだ後も、互いに反目し合っていた。が、ヒーローとしての活動の中で、父の偉大さ、家族への想いに気付き、父もまた、息子の心情に目を開いていく。父と子というテーマを、ここまで正面から描いた作品はこれが初めてであり、その細やかな感情表現が『スターマン』という作品の最大の魅力だろう。今後とも、是非注目してほしいキャラクターの一人である。


そしてお待ちかねの表題作。
バットマンがヘルボーイやスターマンと共演する内容になってます。
初代スターマンであり、天文学者でもあるテッド・ナイトがナチスの残党『10月の騎士団』に誘拐されるという事件が発生。
独自に事件を追おうとするバットマンの前に、事件を聞いたB.P.R.D.からヘルボーイもゴッサムに来訪。
互いに協力して調査を行うことに。

調査の結果敵の本部はアマゾンの辺境にあることが判明。
ここでスターマンが参戦して3人で協力していくストーリーになるのかな…と思いきや、その後ゴッサムにてジョーカーによる誘拐事件も発生。

バットマンがゴッサムを離れられなくなったため、急遽やってきたスターマンとヘルボーイの二人で敵の本拠地に乗り込むことに。
1話目にしてバットマン退場しちゃってます。
(一応2話目でも序盤とラストシーンにちらっと登場しますが)
1話と2話で出張り続けるのはヘルボーイ1人なため、実質彼が主役寄りなクロスオーバーな気がしないでもない。

スターマン

2話目からはクトゥルフ神話がストーリーに絡みだし、さらには敵の手によって邪神が召喚されてしまうというオカルトアクション要素がより強くなった展開にシフトしていきます。
ヘルボーイが共闘するヒーローがバットマンからスターマンに変わったってのもちょっと影響しているんでしょうかね。
とにかくバットマン要素はかなり薄め。

◆感想
ミニョーラが手がけたバットマン短編作品が4本楽しめる1冊。
カバーギャラリーやインタビューもおまけで収録されており、さらにはキャラ解説も充実したなかなかに読み応えのある日本特別編集っぷりです。
デス・イン・ザ・ファミリーのカバーアートってミニョーラだったのか…

インタビューでは「マーヴルのコミックスを読んで育ったので、正直なところDCのキャラクターに強い思い入れはないんです」等と答えており、
若干ぶっちゃけすぎ気味なのにも注目。

ヘルボーイは全く押さえていないアメコミだったのですが、本作を読んでちょっとだけ興味がわいてきました。
あと、タトゥーやピアスを付けており、歯に衣着せぬ言動を行うなど個性が強いスターマン(7代目)もこれまた魅力的なヒーロー。

エルスワールド物の秀作『ゴッサム・バイ・ガスライト』と構成がヘルボーイ寄りとはいえ各々に良い感じに見せ場が与えられているクロスオーバー『バットマン/ヘルボーイ/スターマン』は是非一読をお勧めしたい。
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