ツルゴアXXX

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07 2011

アラン・ムーア&デイブ・ギボンズ/ウォッチメン(Watchmen)

ウォッチメン表紙
「セックスと人殺しに耽ったあげく、
 己の罪に腹まで浸かった売春婦と政治屋どもは
 天を見上げてこう叫ぶだろう。
 "助けてくれ!"
 …見下ろして俺はこう答える。"いやだね"」

“金曜の夜、ニューヨークで一人の男が死んだ――”

時は1985年の核戦争の危機が目前にまで迫った東西冷戦下のアメリカ。
1977年に制定されたヒーロー禁止法、『キーン条例』により、政府公認の者以外、全ての活動が禁じられた。

ニューヨークのある夜。政府諜報員として活動していたヒーローの「コメディアン」ことエドワード・ブレイクが、ビルから突き落とされて殺害された。
一人違法に活動していたヒーローの「ロールシャッハ」(ウォルター・コバックス)は、独自にブレイク殺害事件を調査し、これを何者かによるヒーロー狩りと断定し、
現在は引退し、それぞれの生活を営んでいるかつての相棒や同僚達に警告を発してまわるが、協力は得られない。

仲間の協力が得られずとも調査を続けるロールシャッハの行動はかつてのヒーロー達を巻き込み、
真実が明らかになるにつれ、想像を絶する巨大で恐ろしい陰謀を目の当たりにすることになる…


◆収録作品

1986年09月:Watchmen #1
1986年10月:Watchmen #2
1986年11月:Watchmen #3
1986年12月:Watchmen #4
1987年01月:Watchmen #5
1987年02月:Watchmen #6
1987年03月:Watchmen #7
1987年04月:Watchmen #8
1987年05月:Watchmen #9
1987年07月:Watchmen #10
1987年08月:Watchmen #11
1987年10月:Watchmen #12


◆グラフィック・ノベルの傑作
1950年代以降、アメコミは成人読者からの人気にかげりが見え始めていました。
この頃はコミックは子供が読むものとして捉えられてきたのです。

しかし、本エントリーで紹介する『ウォッチメン』は、
その成人読者を呼び戻した傑作であります。

※本エントリーで紹介するのは(ShoPro Books)版です。

本作『ウォッチメン』は、DCコミックのVERTIGO(バーティゴ)レーベルから刊行された作品です。
VERTIGOレーベルは過激な表現が許されているのが特徴。

本作はグラフィックノベルとして扱われ、
内容もアメリカの文化、歴史、風俗などを幅広く取り込んでおり、
キャラクターの心理描写をメインに扱っているのもあって向こうでは文学作品として認知されているとか。
実際のところ漫画というには一ページの情報量があまりにも多く
さらに各章が終了するごとに、
キャラクターや世界観などをより深く掘り下げる文書、資料などが挿入されるため、
そのボリュームから一日で読破するのは難しいです。

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一ページに基本9コマという特徴的なコマ割。
人物同士の会話がメインであるため台詞も多い

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作中に登場する現在は引退したヒーロー、『ナイトオウル』の自伝。(ナイトオウルは左から2番目)
漫画の世界にしか存在しなかった『本物』のヒーローが現れた事に強く刺激された事が語られている。

一般的にイメージされるアメコミは、
『迫力のあるアクションシーン』『テンポの良いストーリー運び』が主ですが、
本作、『ウォッチメン』はそのような戦闘シーンは殆ど無く、上で述べているようにキャラクターの会話が主であり、さらに当時の世相を反映した大量の時事ネタをストーリーに組み込んでいるため、
膨大な情報量を飲み込みながら読み進める必要があります。
実際解説がないとよく分からない部分がちょくちょくあるのですが、(向こうの有名人や番組、シーンの意味など)そこはご安心を。海外コミックサイト「PlanetComics.jp」による解説サイトが存在します(ただ非常に残念なことに、現在チャプター8の解説を最後に更新停止中…)

【解説サイト】

ちなみに本書の解説がWEB掲載になったのは、原作者であるアラン・ムーアの「原著に一切の変更を加えてほしくない」という意向を汲んだためだとか。

◆チャプター別解説リンク
【「ウォッチメン」原作コミック解説(1) CHAPTER 1 [P1~P12]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(2) CHAPTER 1 [P14~P38]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(3) CHAPTER 1 [P33~P38]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(4) CHAPTER 2 [P40~P48]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(5) CHAPTER 2 [P49~P68]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(6) CHAPTER 2 [P70〜P72]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(7) CHAPTER 3 [P75〜P89]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(8) CHAPTER 3 [P90〜P100]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(9) CHAPTER 3 [P103〜P105]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(10) CHAPTER 4 [P109〜P121]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(11) CHAPTER 4 [P122〜P136]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(12) CHAPTER 4 [P137〜P140]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(13) CHAPTER 5】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(14) CHAPTER 5 [P142〜P154]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(15) CHAPTER 5 [P155〜P170]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(16) CHAPTER 5 [P171〜P173]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(17) CHAPTER 6 [P176〜P189]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(18) CHAPTER 6 [P190〜P203]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(19) CHAPTER 6 [P205〜P207]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(20) CHAPTER 7 [P210〜P225]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(21) CHAPTER 7 [P226〜P238]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(22) CHAPTER 7 [P240〜P242]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(23) CHAPTER 8 [P245〜P247]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(24) CHAPTER 8 [P248〜P272]】
【「ウォッチメン」原作コミック解説(25) CHAPTER 8 [P273〜P276]】

◆PICKUP キャラクター ロールシャッハ
シャッハさん本名:ウォルター・ジョゼフ・コバックス、45歳。

汚いトレンチコートと帽子、そしてうねうね動く模様が特徴的なマスクを被る不潔な男。
本作の実質的な主役。
ストリートに繰り出しては一人で犯罪者を叩き潰しているヒーローである。
性格は冷酷、さらに右翼主義であり、
他人と馴れ合う事はしない。
ヒーローといってもこのウォッチメンの世界では超人的な能力を持つものは「Dr.マンハッタン」の一人しかおらず、
(2番目の画像の青い肌の男)
彼自身は何の特殊能力も持たない。
ウォッチメンの世界では『ヒーロー』はコミックのような武器やコスチュームに身を包んだ自警団という扱いの存在であり、
法的に保護されているヒーローはほんの一部だけなのである。
というかちょっとした変態みたいに扱われている。
(大体普通の人はコスチュームを身にまとって犯罪と戦おう!なんて思いませんしね。)

このような『ヒーロー』の一人であるロールシャッハは条例制定後も暴力的なヒーロー活動を続けているため、
すっかり一般市民からも疎まれているのだ。
悪人は殺す。
聞き込みでは相手の指をへし折って尋ねる。
いくら効果的であってもこれじゃあ疎まれても仕方ない。
実際殺人容疑をかけられて警察に追われてしまっている身分なのである。

その戦闘スタイルは身近にある物を使って戦うというもの。
部屋にあったスプレーとマッチを使って火で攻撃。
尋問したい相手は冷蔵庫に押し込む。
ムカついた相手に煮えたぎった料理を顔に浴びせるなど…

彼は『良くも悪くも』善悪に対して妥協しない。
このポリシーはストーリーのラストに活きてくる事になる。
このように暴力的な人間であるロールシャッハは一般的に見れば狂人として扱われている。
その精神状態も『診察した精神科医に影響を与える』ほどである。

しゃべり方も『何の感情も感じられない』と評されてしまう。
この独特なしゃべり方はロールシャッハ専用のフキダシで表現されている。
(がたがたした感じのフキダシ。2枚目の画像参照)

始末した犯罪者に二つ折りの手紙を添えるのだが、それには「.┓┏. 」という署名がなされている。
これは「ロールシャッハ」である事を表している。
マスク含め『ロールシャッハ・テスト』が元となっている。

ロールシャッハがなぜこのような精神性を持つに至ったのか…それは彼の※オリジンに理由がある。

ちなみに彼、『ロールシャッハ』にはモデルがおり、二作品のアメコミのキャラクターがイメージの元になっている。

A.jpg『Mr.A』(倫理感に対して忠実な点)
質問『クエスチョン』(外観など)

というか、ウォッチメンに登場するヒーローの面々は、
DCコミックスが取得したチャールトン・コミックのキャラクターを原型としている
のもあって既存のヒーローと似通ったデザインが多い。
色々調べてみると楽しいかも。

※オリジン…そのヒーロー、ヴィランの誕生秘話を指すアメコミ用語。

◆感想
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アメコミの一大転機となった『ウォッチメン』、
『もしもヒーローが現実に存在していたらどうなるのか』
この『もしも』を徹底的にリアルに描ききった本作はそのテーマ性を評価され、
1986年の発表と同時に権威あるカービー賞、アイズナー賞を受賞。
1988年には世界最高のSF作品に贈られるヒューゴー賞において唯一漫画作品で特別部門に選ばれ受賞。
2005年に米タイム誌が選ぶ「1923年以降に発売された長編小説ベスト100」にランクインするという
漫画の枠を超えた評価がなされています。
現在は再販もなされて入手が容易なため、ぜひ一度触れて欲しいアメコミです。

現実のアメリカ史をなぞりつつも、ヒーローの出現によって史実とは異なる部分が現れているという『架空戦記モノ』な側面も持ち合わせているのが本作の魅力。
アメリカ史はちょっと馴染みが薄くてピンと来ない部分もあるかもしれませんが、まず読んで、そしてその後色々解説を見て回るのがオススメです。

ちなみに、ウィキペディアのウォッチメン原作の項は、
あらすじで全てネタバレしているので注意。

◆ちょっぴり気になったシーン
Dr.マンハッタンが公開討論番組に出演するシーンで、
司会者から『どうしたんだい?ドク?』と呼びかけられるシーンがあります。

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声に出して言いたいジョーク

しかしDr.マンハッタンは
『バッグス・バニーの決まり文句が何か?』としらける反応で返します。
(超人と化したことで人間味が薄れてきていることが分かるシーンの一つ)
でも日本語訳でのバッグス・バニーの『What's up, doc?』というセリフは
『どったの?先生?』のほうが馴染み深いのでちょっともやっとしたシーンでした。
『~、ドク?』と訳さないとジョークにならないから仕方ないんですけどね。

そんだけ。

◆映画版感想
【日本版の予告】

原作未読だとしんどいかもしれない一作。
例えばOPではミニッツメン(作中で登場する初期のヒーローチーム)の顛末が流れるのですが、
一見ではどういう意味のシーンなのか掴みにくいと思いました。

『とにかく訳分からん!』
『あのシーンはどういう意味なの?』
『発言の意図が掴みにくい』
等々…
レビューサイトでもライト層の評判はあまり良くない感じです…
一部ではボッコボコに非難されてたり。

たしかに初見でシーンの意図や細かな伏線回収、登場人物の心理描写まで理解し、
なおかつ話に付いていくのはコミックですらハードルが高いのですから、
さらにそれが巻き戻せない映画ともなると…キツイでしょうね。

原作に忠実な映画化であるのはいいんですが、
3時間に収めるとなるとやっぱり色々はしょらなきゃいけないわけで…
(海外ではディレクターズ・カット版が発売されているとか。日本でも出してよ!)

しかし原作のファンであればあるほど、
この映画の評価は一気に上がります。

『あの場面がイイ感じに描写されてる!』とニヤニヤできるシーン群。
若干デザインにアレンジが入っていたりしますが原作コミックから抜け出たようなキャラクターたち。
原作以上に強調されたバイオレンス描写。
(原作でぼかしてた描写を直接的にしたり、
 そこまで暴力的じゃなかったシーンも残酷になっていたりと
 『必要以上にクドくないか』とも思いましたが)


そして原作ではやや不足がちだったアクションの描写の強化。
(普通のヒーロー物と比べると当然少ないですが)
当然原作既読ならすんなりと話の流れにも入り込めるわけでして。

とはいえ原作とは異なるシーンもわずかですがあります。
例えば原作に含まれていなかった史実の描写(アポロの月面着陸など)
さらに、ネタバレになるので詳しくは言いませんがラストシーンが改変されていたり。
ここは原作ファンでも意見が分かれているしている点でもあります。

(確かに原作の『アレ』を実写映画で下手に再現すると正直ギャグに見えるかもしれませんが…)

といっても原作をリスペクトした上で改変しようとした部分はきちんと見受けられるんですけどね。
(代用として出てくる『モノ』の名前を良く見てみると…?)

『既読か未読か』で大きく評価が分かれてる部分もあると思います。
とはいえ映画一本でしっかりストーリーの流れとシーンの意図、
登場人物の心理まで理解して楽しんだ人も実際居る
わけですから、
やはり人を選ぶ作品になってたのかもしれません。

それはそうと、Dr.マンハッタンがアレを『ブラブラ』させているのまで再現したのはちょっと感心。
 
※新版向けの解説ページの更新が止まっているため、
解説が同梱されている旧版を購入するのも選択肢としてはアリかもしれません
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