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11 2012

山上たつひこ/光る風

表紙

「おれたちの世代はあやまちをゆるされないんだ!なぜなら――」
「これと まったくおなじあやまちを 
 すでに 過去にわれわれのおやじやおじいさんがおかしているからだ!
 前例がありながら
 それとおなじあやまちをくりかえすなんて人間のすることじゃない!」
「それともきさまらけものかよ!?人間じゃないっていうのかよ!?」


1970年に「少年マガジン」に連載され、さまざまな反響を呼んだ著者の初期代表作を、発表時の扉絵をすべて再現し完全復刻。
軍事国家化が進む架空の近未来日本を舞台にした、巨大な権力犯罪を告発する社会派SFの意欲作。
当時のベトナム戦争を背景とした国際情勢を反映した作品として漫画史に残る名作。


◆暴走列島、日本
本屋で見つけ、その表紙の迫力と『“明日の日本"を予見した衝撃のポリティカル・フィクションという煽り文が付いた帯に惹かれ衝動買いしたこの作品。
作者は山上たつひこ先生です。
現在のギャグマンガの表現方法に大きな影響を与えた『がきデカ』等の作者として非常に有名ですね。

外道!
がきデカ以外のギャグマンガも傑作が多い 画像は外道すぎる主人公が魅力の『幽気ヶ原の決斗』

僕は世代的な違いもあって山上たつひこ作品はギャグマンガぐらいしか知らなかったので、初期の代表作であるこの『光る風』という作品の非常にシリアスな冷たく暗い内容に驚きました。

徳弘正也作品のようにシリアスでもちょっとぐらいはおちゃらけが挿入されたりしないのかなと思っていたのですが、終始一貫してピリピリ張り詰めた空気が漂っています。

出島

物語の舞台は1970年代以降の仮想日本。
S県の藻池村という所で原因不明の奇病が発生し、藻池村の住民は出島に患者とその後出生した奇形児を移住させたという歴史が語られる所から始まります。

戦争が終わって30年以上が経過した日本はまたも軍国主義が台頭し、国民統制も徹底され、往来で弁論活動や色々な集会活動でも行おうものなら、警察が出動し拘束か射殺されるほどの社会になっています。

この気ちがいども!

主人公の弦はそんな日本に疑問を感じ、軍人の家系である我が家を飛び出して独り立ちし、旭出版という会社に就職した事がきっかけで『三光』という言葉と、旭出版の社長から『藻池村事件』の話を知り、政府によって隠された事実の調査に乗り出すようになるのでした。

読み進めていくと実在の戦争インドシナ戦争と架空の事件が絶妙に織り交ぜられ、さらに各人の思惑が複雑に絡み合っていき、仮想戦記としてもストーリーが展開していくため目が離せません。

米国

『光る風』では差別、軍事、格差のそのあり方が生々しく描かれており、不安な未来を予見させるようなものとなっています。
こんな重々しい作品がいまや40年以上も前の作品であることが何より衝撃です。
少年マガジンで連載されていたという事も含めて。
今連載するとしたら絶対青年誌になりますね。
もっと言えば青年誌でもターゲットである年齢層が高めな雑誌での連載になりそう。

たすけて

この作品がリアルタイムで連載されていた1970年代はまだまだ戦犯が存命だったり、公害病が深刻な問題となっていたり、ベトナム戦争の真っ最中だったりと多くの不安に包まれていた時代でもあります。

その当時を生きていた人であれば、この作品の近未来観をより恐ろしく捉えることが出来るのかもなぁと読了後に感じました。

もう一度だけ言いたくなりましたが、ホントこの後にドタバタ系のギャグマンガを描くなんて到底思えないような作風でしたよ。
この『光る風』という作品は。

◆関連リンク
【山上たつひこ「光る風」完全版と旧版の違い】(※『Dorm B』様)

【『光る風』完全版について】(※『編集長ノート』様)
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