ツルゴアXXX

ARTICLE PAGE

24 2022

リック・リメンダー&トニー・ムーア他/ヴェノム

トンプソンヴェノム表紙

『親父に殴られたことは、すべて記憶している。
 私は、自分が受けた仕打ちへの恨みを学校で晴らし続けた。
 子どもたちは、イジメっ子が弱い者イジメをするのを見るのが大好きだ。
 そして、大人も。
 応援してくれる。愚痴るより承認されるほうが気持ちいい。
 認めてもらえない自分を補うために、
 他人から認めてもらうことに人生を費やしてきた。
 しかし、フットボールでどれだけ成功しても、どれだけ多くの女の子とデートしても、
 どれだけ多くのメダルを獲得しても、どんなに褒められても満足することはなかった。
 それらは親父からではないから。
 父親からの褒め言葉を待つ永遠の10歳児。
 自らの意思で初めてしたこと、それは軍隊への入隊だった。
 それは、親父が私のことを少しでも誇りに思ってくれた瞬間でもあった』


ヴェノム

元海兵隊員のユージン・“フラッシュ”・トンプソンは、イラク戦争で指揮官を救うため、自ら犠牲となってしまう。しかし、フラッシュは「オペレーション・ヴェノム」と呼ばれる軍の秘密プロジェクトに参加することで、2度目のチャンスを与えられる。かつてスパイダーマンの最大の敵であったエイリアンの共生体と結合した彼は、強大な能力をうまくコントロールできず、その黒いコスチュームがもつ闇の欲望の犠牲者となる危険に晒されてしまう……。


◆収録作品

2011年05月:Venom Vol.2 #1
2011年06月:Venom Vol.2 #2
2011年07月:Venom Vol.2 #3
2011年08月:Venom Vol.2 #4
2011年09月:Venom Vol.2 #5


◆The lethal alien symbiote known as Venom is in the custody of the U.S. military...
スパイダーマンの登場キャラクター、ユージン・“フラッシュ”・トンプソン
大多数の人が持つフラッシュのイメージは、科学オタクであるピーター・パーカーに対して嫌なちょっかいを掛け続けるジョック……イジメっ子という印象が強いキャラクターでしょう。そしてスパイダーマン=ピーター・パーカーという事実を知らず、スパイダーマンの大ファンをやっているという味わい深い設定もまた印象的。

スパイダーマンの映画版やアニメ版では大抵ピーターの学生時代がメインになりがちで、フラッシュもこのイジメっ子ポジションとして登場するわけですが、原作コミックはピーターは高校生ヒーローから始まり大学へ進学・卒業……と少なからず時間が進んでおり、社会人になったあたりで加算にストップがかかり年齢設定は曖昧になったものの、ピーターを取り巻く周囲の人々もしっかり大人になっております。
イジメっ子だったフラッシュはピーター・パーカーと和解して友人という間柄になり、その後大学在学中に陸軍に所属する道を歩むことに。陸軍に所属。陸軍です(強調)。この邦訳本ではフラッシュは元海兵隊員と記載されており、本ブログでも普段からアメコミレビューでの記事上部のあらすじは本に記載されているものを引用するようにしているので同じく元海兵隊員と書いてますが、フラッシュの所属は陸軍です。

どうもこれは翻訳が間違っているというより、そもそもマーベルグラフィックノベル・コレクションの原書の時点で間違っているのが原因らしい。ただ海兵隊員として記載されているのは本書裏表紙のあらすじと、本編開始前の独自ページである「これまでのストーリー」くらいで、本編では海兵隊員という記述は見られず『アメリカ陸軍の伍長』と訳されてるので話は普通に楽しめます(妙な感じの台詞回しがちょくちょく出てくるけど)。マーベルグラフィックノベル・コレクションは元々はフランスの出版社が刊行しているシリーズなので、今後もこういう事があるかもしれない……もうちょっとしっかり設定周りもチェックしてほしいな。

で、軍隊でのショッキングな体験でトラウマを負い、一度はアルコール依存症に陥るものの、友人のサポートにより症状が回復。憧れのスパイダーマンへの想いもあって軍への再入隊を決意し、イラクに駐屯する事になったのですが、そこでの任務中に所属するチームが攻撃を受け、フラッシュは両足を失う重症を負うことに。
【Amazing Spider-Man Vol 1 574 | Marvel Database | Fandom】※上記のエピソードが語られている作品。

そして長らく車椅子生活を余儀なくされる事となったフラッシュですが……軍での活躍により彼は英雄として認められ、政府の超人兵士計画『プロジェクト・リバース2.0』に参加。政府はフラッシュを秘密諜報員として活動させるため、マック・ガーガン(当時ヴェノムと共生していた男)から取り除いたシンビオートと結合。
その結果フラッシュ・トンプソンは見事、『エージェント・ヴェノム』として復活したのであった!!
【Amazing Spider-Man Vol 1 654 | Marvel Database | Fandom】※フラッシュがエージェント・ヴェノムとして再出発するエピソードの収録号。

エージェント・ヴェノム登場
スーツを装着できるのは最大48時間まで
それを超えるとシンビオート・ヴェノムと永久に同化してしまう
そのため、総司令部は万一に備えてフラッシュにキルスイッチを埋め込んでいる

ってわけで、あのフラッシュ・トンプソンがスーパーヒーロー、『エージェント・ヴェノム』として活躍するマーベルグラフィックノベル・コレクションの第5号『ヴェノム』第2シリーズのレビューです!
本作の翻訳・監修はidsamという方。ググったところ昔エミネムの本『エミネム・トーキング』の翻訳を手掛けた事がある方らしく、『海外から発信される様々なサブカルチャーを日本に伝達するフリーランサー。横浜のインターナショナル・スクールを卒業後、オレゴン州立大学でジャーナリズムを専攻。頭半分日本人、半分アメリカ人な翻訳家。』という著者略歴を見つけました。日本人なのか海外の方なのかはよく分からない……。

本編は、ドクター・エクメチッチという科学者がどんな金属も溶かす南極産ヴィブラニウムを武器に加工する方法を見つけた事がきっかけでドクターとその一味によって東ヨーロッパのヌロスベキスタンで戦争が起こり、加えてそのヴィブラニウムを武器化する方法を知るために博士を狙う殺戮集団『ザ・ブライト』の介入により巻き起こっている混乱を食い止めるため、この出来事の裏で糸を引いている武器商人クライムマスターを追うエージェント・ヴェノム……フラッシュの戦いが描かれています。

といっても本書は第2シリーズの序章なので、基本的に対峙するヴィランはクライムマスターに誘拐されて育てられた事で彼をダディと慕う4代目ジャック・オ・ランタンとの戦いがメイン。
2話ではサベッジランドでクレイヴン・ザ・ハンターと相まみえたり、3話からは恋人のベティ・ブラントがクライムマスターの手によって誘拐され、彼女のもとへと急いでいる時に行き違いから憧れのヒーローであるスパイダーマンと戦う事になったりと、ヴェノムになりたての序盤のストーリーでありながらなかなかの激闘ラッシュが続く内容だ……!
正直あのフラッシュ・トンプソンがここまでスーパーヒーローとして戦えてる絵面自体もインパクトがある。

VSジャック・オ・ランタン

◆感想
面白い事は面白んだけど、いかんせん物語が序章も序章というところで終わっており、続きがかなり気になる状態な一作。トニー・ムーアとトム・ファウラーによるアートはどれも構図がカッコよく、アクションシーンの満足度がかなり高い内容ではあります。
個人的な意見ですが、アメコミは格闘してる場面になるとちょっとイマイチな事が多かったりするものの、本作はいちいちバトルの魅せ方がスタイリッシュなんでそこは本当に見ごたえがある。

最後に収録されている第5話はバトル展開はちょっとお休みでフラッシュの実家の母親から電話があり、父親がアルコール依存症を再発させ家を出て戻ってこないという連絡を受け、怒りのままに電話を切るも母親に同情して結局父を探しに出かけるというストーリー。
フラッシュは幼い頃から酒飲みの父親にキツく罵られたり暴力を振るわれたりと酷い扱いを受け続け、それでも父親に褒められたい一心でアメフトを頑張り続けていた。高校時代にピーターをイジメていたのもこの家庭環境の反動があったから。フラッシュは成長するに従って父親との関わりを絶ちたいくらいに毛嫌いするようになったものの、根っこの部分では純粋に父親に褒められたいという、10歳のころから変わらない想いを抱えているのであった。ラストシーンもただただしこりが残る物哀しい一作……なんだけど、フラッシュという男を丁寧に掘り下げてもいる、色々と印象深い内容です。

アルコール依存症の父を持つフラッシュ

このヴェノム第2シリーズ、マーベルグラフィックノベル・コレクションの原書刊行リストを見るに続きは刊行してないっぽいので、先の話が読みたければ原書を買うか、もしくは『マーベル・エンサイクロペディア』のヴェノムの項では一通りのストーリー展開が解説されているのでそれで確認するかって感じですね……。

あとフラッシュの一人称が終始「私」で少々違和感がある(ヴェノムの力で暴走気味になると『俺』にはなる)のと、前述した海兵隊員の件やなんか違和感あるセリフが時々飛び出すのもあって、今後の翻訳のクオリティに一抹の不安を感じてしまう一冊でもありました。
まあ物語の内容を楽しむこと自体はできる翻訳レベルではあるし、何より初邦訳タイトルの魅力にはやはり抗いがたいから、第11号の『ファンタスティック・フォー:アンシンカブル』は絶対買っちゃうんだけども……!!
【翻訳家:小池顕久/たけうちじん氏による誤訳指摘ツイート】
関連記事

0 Comments

Leave a comment