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10 2022

マットソン・トムリン&アンドレア・ソレンティーノ他/バットマン:インポスター

バットマンインポスター表紙
「偽物は確実に存在する」
「人が死んでいる」
「彼は信用できない」
「彼は平気でお前を傷つける」
「彼はゴードンを騙してうまく利用していた」
「彼はお前を利用してるだけだ」

“バットマン”の名は、正義を取り戻せるのか?

両親を目の前で殺されたことから、怒りに突き動かされバットマンとなったブルース・ウェイン。
彼の戦いはゴッサムシティの腐敗を正しつつあったが、街の権力者たちはそれを快く思わなかった。
街の暗部は第二のバットマンを生み出し、犯罪者を殺害させることで、その罪をバットマンに着せてしまう。
自身の偽物を捕らえるため奔走するバットマン。
しかし、偽物の存在を知らないゴッサム市警からは、容赦なく銃を向けられてしまい……。
「バットマン」の名は正義を再び取り戻せるのか?
映画『ザ・バットマン』の雰囲気を踏襲した、新しいバットマンの物語が世界同時発売!


◆収録作品

2021年12月:Batman: The Imposter #1
2022年01月:Batman: The Imposter #2
2022年02月:Batman: The Imposter #3


◆How can you prove your innocence from behind a mask?
本作はトップクリエイターによる読み切り作品をリリースしていく事を目的としたDCコミックスのブランド、『DCブラックレーベル』
このレーベルのタイトルからまたも新たな邦訳が刊行されました!!地味にDCブラックレーベルの作品は邦訳版が充実している。
今回邦訳されたのは『バットマン:インポスター』

ちなみに本作、刊行した小プロの宣伝文句は「映画『ザ・バットマン』の雰囲気を踏襲した、新しいバットマンの物語!」というものなんですが、『バットマン:インポスター』は別に映画『ザ・バットマン』の番外編コミックではありません。
本作『バットマン:インポスター』を担当したマットソン・トムリンは映画『ザ・バットマン』の脚本執筆にも途中から参加しており、その作業中に降りてきたバットマンのストーリーのアイディアをDCに持ち込んで本作が生まれたのだとか。本作が映画『ザ・バットマン』の世界観に寄せている作品に仕上がっているのは、そういう経緯があってのことらしい。
ちなみにトムソンが参加した時点で既に『ザ・バットマン』の脚本はほぼ完成した状態だったため、映画の方では氏の名前はクレジットはされなかったとか。
……という事で、『バットマン:インポスター』は映画『ザ・バットマン』テイストな世界観でありつつも、映画とは設定周りなどが全く別物のエルスワールドが舞台な作品というわけ。この宣伝、正直かなり紛らわしい言い回しだな……!
まあこの話はこの辺にして、そろそろ『バットマン:インポスター』の内容について紹介。

***

本作『バットマン:インポスター』は、ブルース・ウェインがゴッサムシティでバットマンとしての活動を始めてまだ間もないものの、その知名度が広がりつつあり、街にもその影響が強く広がっている……という時間軸。
そんなゴッサムシティに、犯罪者を容赦なく殺害していくバットマンの『偽物』が現れ、現在二人のバットマンが存在している事に気付いていない街の人々やゴッサム市警は『本物のバットマン』がとうとう殺人に手を染めたと思い込み、バットマンを逮捕するためにその捜査の手を広げていく。
ブルースは『偽物』の凶行を止めるため、独自に調査を開始する……というもの。

バットマンといえば、両親を強盗に殺された出来事をきっかけに犯罪を憎むようになった主人公、ブルース・ウェインがダークヒーロー『バットマン』として立ち上がり、彼に理解を示す様々な人々の協力を得て犯罪と戦う物語ですが、本作『バットマン:インポスター』正史世界の作風とはベクトルの異なる暗さと生々しさが特徴となっております。
ブルース・ウェインが幼い頃の悲劇をきっかけに犯罪を強く憎み、バットマンとして活動するようになるという筋は同じなのですが、本作のブルースは幼少期の時点でひきこもり、反抗挑発症、PTSD、共感性欠如、急性不安、強迫性障害と、精神的な病を数多く抱えており、ささいな事で強い暴力衝動が発露する不安定な子供時代を送っていたという設定に。

ブルースを見放したアルフレッド

そのせいで正史では献身的にブルースを支えてくれているアルフレッドが、本作ではブルースの扱いに手を焼いた挙げ句完全に見放し、彼が11歳の頃に執事を辞めてウェイン家を離れてしまうといったショッキングな展開が。
ゴードン本部長はバットマンの理解者として彼の活動を容認し活動に協力していたようなのですが、その行動が原因でゴッサム市警の評判を落とす事になり、結果警察から去ってしまったらしく、本編では名前だけが出るだけで登場自体は一切なし。
本作には当然ロビンのようなサイドキックも存在していないため、正史のようなバットファミリーは一人もいない。バットマンは誇張抜きに孤独なヒーローとして描かれています。

唯一バットマンがブルース・ウェインである事を知っており、かつ彼の事を気にかけてくれているのがレスリー・トンプキンス(本作ではアフリカ系の精神科医と大幅にアレンジされたキャラになっている)なのですが、彼女はブルースが抱える精神的な病が発露した状態ともいえる『バットマン』の活動を全く容認しておらず、サポートしてくれているわけではない。
……とまあ、あまりにブルースが孤独な状況に陥りすぎていて心配になるのですが、そこに本作のヒロインであるゴッサム市警のブレア・ウォン刑事と恋に落ちるという展開も描かれていき、本作のあまりに追い込まれているブルースの設定も相まって、彼女の存在が強く効果的に映るように演出されているのは面白い部分。

『バットマン:インポスター』のメインヴィランは謎の存在であるバットマンの『偽物』なんですが、他のバットマンヴィランも物語の中でさりげなく名前が出てきたり、多少姿を見せてくれたり、あと意外なキャラが印象的な役割を与えられていたりなどで色々登場します。「こいつあのヴィランか!」という気づきも多くてなかなか楽しい……。

オーティス・フラネガン
ネズミ駆除業者の仕事をこなしほそぼそと生きている男、オーティス・フラネガン
周囲から疎まれ続ける辛い人生を送ってきた彼はある日、
『バットマン』と運命的な出会いを果たす……

◆感想
面白かった!!!!!

理解者はおらず孤独に戦い、また精神的にもヒーローとしてもまだまだ未熟な部分が多く、正史のようなスタイリッシュなダークヒーローとは言い難い描かれ方をしている本作のバットマン。
同じく“未熟で弱い”キャラクター性だった『バットマン:アースワン』とはまた大きく異なったキャラクター像をしており、かなり新鮮な感じで楽しめました。
ブルースの一人称が普段の翻訳で定着している『私』ではなく『僕』という形で訳されているのも、本作のかなり若々しく精神面で幼さが残るブルースのキャラにもマッチしていて良い。
『偽物』がバットマンを騙って犯罪者殺しを起こし始めた動機もブルースのこの甘さに起因しており、バットマンと偽バットマンの戦いの顛末も、かなり苦々しい後味が残る印象的なラストに仕上がってます。

このとにかく乾きまくっていて、普段のコミックのようなある種ファンタジーな要素も徹底して排された生々しい本作『バットマン:インポスター』、先月は本書と同時刊行された『バットマン:エゴ』『バットマン:ザ・ワールド』に注目していたのもあって、本書はかなりダークホースな一冊でした。オススメだ!!

ところで本作を読んでいる時になんとなく思ってたんですが、偽物のバットマンが現れて本物の評判を貶めるっていう展開、コミカルで色々と自由すぎる作風だった50~60年代あたりのバットマンですでにやってそうな気がしません?探せばそういうエピソードが見つかったりしないかな……?有識者からの情報を求む。

終わりは決して来ない

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