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05 2022

ダーウィン・クック&アマンダ・コナー他/バットマン:エゴ

バットマンエゴ表紙
“とにかく、ダーウィン・クックは世に出て、私たちは彼の魔術に魅了された。
 ごく短い期間ではあったが”

ブルース・ウェイン最大の敵はバットマン!?
人格が二つに分裂した彼は重大な決断を迫られる……。


ジョーカーの部下のチンピラを追い詰めたバットマン。
しかし、その男は自ら命を絶とうとし、衝撃的な理由を明かす。
彼はジョーカーを裏切って金を奪ったが、それが発覚してしまい、ジョーカーに殺される前にと自分の妻子を殺害したと言うのだ。
罪なき親子を救えなかった罪悪感に苛まれたバットマンは、「復讐に燃えるバットマン」と「理性的なブルース・ウェイン」に人格が分裂してしまった……。
2016年に肺がんでこの世を去った天才コミッククリエイター、ダーウィン・クックが描く衝撃の表題作「バットマン:エゴ」を含む、ファン待望の短編集。


◆収録作品

2000年08月:Batman: Ego
2002年01月:Batman: Gotham Knights #23
2002年09月:Catwoman: Selina's Big Score
2002年11月:Batman: Gotham Knights #33
2004年12月:Solo #1
2005年08月:Solo #5
2007年01月:Batman and the Spirit
2015年02月:Harley Quinn Holiday Special


◆闇の騎士は葛藤に打ち克つことができるのか
『ザ・ニュー・バットマン・アドベンチャーズ』『バットマン・ザ・フューチャー』などのアニメーション作品に関わり続けてそのアートスタイルを吸収・独自に昇華し、コミックス作家として2000年にDCコミックスでデビューした人物、それが彼、ダーウィン・クック!!
本書『バットマン:エゴ』は、肺がんにより53歳という若さでこの世を去ってしまったクックがこれまでに手掛けてきたバットマン関係のタイトルを集めたボリューミーな短編作品集だ!
シリアスなエピソードだったりスタイリッシュでクールなエピソードだったり、ユーモアに振り切れたエピソードだったりと、実にバラエティに富んでいる作品群で構成されているこの一冊。それでは早速各作品を紹介していきます。

◆バットマン:エゴ
精神が分裂するブルース
『準備が整ったと思えた後、私を受け容れる必要があった。
 私は不可避の存在だった。それでもお前は私の名を言えずにいた。
 ガラスの破片が散る中で私たちはついに一つになった。
 選択の余地はなかった。お前は私をバットマンと呼んだ。
 だが、お前が私から逃れられない本当の理由は…
 私の名が“恐怖”だからだ。私はお前の中にいる』


ダーウィン・クックのDCコミックスデビュー作であり、今現在もバットマンの名作エピソードとして取り上げられる事が多い傑作の一つ。
今年の3月11日に公開される新作映画『THE BATMAN-ザ・バットマン-』の監督マット・リーヴス脚本を制作する際に影響を受けた作品でもある、というのも注目ポイントです。

ジョーカーを追うために、バスター・スニッブズという男を締め上げてその居場所を吐かせたバットマン。
バットマンは彼から手に入れた情報によってジョーカーを捕まえる事に成功するが、その間にバスターはボスであるジョーカーを出し抜き、40万ドルを奪って逃走を始めていた。
しかしバットマンはバスターのこの行動も予測しており、事前に仕掛けておいた発振器で居場所を探り、ようやく追いつく。
だがそこでバットマンが目撃したのは、隠し場所から金を持ち去ろうとするのではなく、橋の上から投身自殺しようとするバスターの姿であった。
バスターの自殺をすんでのところで阻止し、理由を尋ねるバットマン。
聞けばバスターの裏切りは既にジョーカーにバレてしまっており、次にジョーカーが脱獄した際には確実に自分とその家族……妻と娘が報復によって悲惨な殺され方をする事は目に見えている。
そのためバスターは自らの手で妻と娘を殺害し、最後に自分もこの世を去ろうとしていたのであった。
しかもバットマンはその事実に一瞬硬直してしまい、バスターがその場で拳銃自殺してしまうのも止める事ができなかった……。
己の『不殺』のスタンスと、ジョーカーを捕らえるために取った行動が、最終的に一つの家族を完全にこの世から消し去ってしまった事実に強く心をかき乱されてしまうバットマン……ブルース・ウェインは、ケイブへ帰還し自問自答を繰り返す。
すると突然ブルースの前に、『もうひとりのバットマン』が姿を現し始めた……。

……という流れで、理性的な人間のブルース・ウェインと、復讐に燃える怪物バットマンという二つの人格に分裂してしまったバットマンが己と対話を続けていくというエピソードがこの『バットマン:エゴ』
実はブルースには幼い頃から攻撃的な人格が心の奥底に存在しており、両親を喪ったあの日にこの人格が発露。
ブルースによって『バットマン』と名付けられたその人格が、それまでのブルースの人格と混じり合って一つになったのが、今のブルース・ウェインでありバットマンなのである……という解釈で描かれる秀逸な一編です。
しかし今回のバスターの自殺の出来事によって『ブルース』と『バットマン』の人格が分裂してしまい、ブルースは『悪人はバットマンの正当な裁きによって殺されなければならない』という己の心の声と戦わなければならなくなってしまう。
『バットマンである事の責任』を深く暗く掘り下げたこのエピソード、とにかく最の高だった……!
ぶっちゃけこのエピソードだけでもこの邦訳版に3630円を出してお釣りがきていると思う。

◆ここに怪物あり
バットマンVSマダムX
“ゴッサムシティ。この街は人々に影響を与える。変えるのだ。
 その事例をあまりにも多く見てきた。だから今ここにいる
 あまりにも多くの人々が怪物になるのを見たから”


こちらの作品ではクックはアートを担当しており、ポール・グリストがライターを務めている一作。
ゴッサムシティ全域を毒物で汚染しようとするヴィラン、マダムXの凶行を止めようとするが、彼女の放り投げた毒物でバットマンは一時的にトリップしてしまうという展開に。
その中でバットマンが『自分の存在がヴィランを生み出している』『自分の勝手でディックとアルフレッドの人生に負担を強いている』事に思い悩んでいる様が描かれているのが見どころ。
ちなみにこのマダムXは同じく『マダムX』という個人誌をを持つマダム・ザナドゥとは特に関係なく、単に名前がかぶっているだけの本作初登場のキャラな模様。

◆セリーナズ・ビッグ・スコア
セリーナズビッグスコア
「あいつを信用するな、ジェフ。
 今回お前は仕事仲間だから言っとく。あいつはただ俺を振ったんじゃねぇ。
 ヤマの最中に裏切りやがった。とんだメス猫さ。
 今は羽振りがいいがな」

「驚いたぜ、スターク。どうして最初に言っといてくれなかった?」
「言ったって同じだからさ。
 詰まるところ…信用できる相手なんかいねぇ」


こちらはキャットウーマンが主役の短編で、キャットウーマン第3シリーズの物語の前日譚として制作されたエピソード。
とはいえこれ一作でストーリーが完結しているので予備知識は不要で読みやすい内容。

多大な時間と資金を費やして計画した秘宝の盗み出しに失敗したため、ゴッサムシティの隠れ家に帰還し、資金稼ぎのためにスイフティという男からとある犯罪計画を受ける事にしたキャットウーマン。
その計画とは、ゴッサムを仕切る大物マフィア、ファルコーネ・ファミリーが特別列車で輸送する大金を奪取するというものであった。
大物相手に現金輸送の襲撃を成功させる仕事というのもあり、ファルコーネを裏切りスイフティを経由して話を持ちかけてきた愛人のチャンテル、キャットウーマンの師匠とも言える存在で、常に冷酷で冷静なベテランの犯罪者スターク、そしてスターク経由で知り合ったジェフという陽気な男とチームを組み、入念な準備と作戦を組み上げて彼らは勝負に出る!!……というストーリー。

この作品、なんというかコマからコマへの絵の流れがとにかく秀逸で、読んでるとマジで脳内で勝手にアニメーションに変換されてしまう体験が出来るのが面白い!各キャラクターの名前を挿入する演出の仕方などもオシャレで、ホントこの作品は構図を変更したりとかする事無く、そのまま忠実に映像化するだけで良い感じにアニメになると思う。
スーパーマンやバットマンよりもコミックデビューが昔の古株キャラクターである、渋くて暴力的な私立探偵、スラム・ブラッドレーもがっつり話に絡んでくるのも注目ポイントの一つです。

◆モニュメント
下アゴがすごいバットマン
「そしてバットマン、
 その正体は謎のままですがこの街のために戦う姿は賞賛に値すると信じ…
 ゴッサムの守護者の像を捧げます!」


こちらの作品でのクックはライターを担当しており、アートはビル・レイとなっております。
ゴッサムシティにバットマンの彫像が建てられる事になったものの、やたら下アゴが強調された像のデザインにバットマンはやや不満げ。そんな最中、ヒューゴ・ストレンジが人質を取り、バットマンの像を爆破するという犯行を予告し、バットマンはそれを阻止するために動き出すが……というコメディ作品。
確かに一昔前のバットマンやアニメでのバットマンはアゴが強調されて描かれがちなんですが、本作はこの『バットマンのアゴ』に着目したギャグエピソードというのもあってか、ビルの描くバッツは他作品以上にアゴがすごい事になってて笑う。

◆デート・ナイト
デートナイト
「時間通りね。準備はすっかり整えてあるわ」
「セリーナ、彫刻が目当てならなぜ逃げない?」
「彫刻なんかいらないからよ、愛しい人…遊びたいだけ!」


こちらもクックはライターを担当している一作で、アートはティム・セールによるエピソード。原題は『Date Knight』であり、バットマンの二つ名『ダークナイト』に引っ掛けたタイトルなのがミソ。
内容はバットマンとキャットウーマンがいちゃいちゃするだけ!以上だ!
先日紹介した『バットマン:ザ・ワールド』にもマチュー・ガベラによる似たようなコンセプトのブルセリ作品があったので、「やっぱ既に本家でこういうの描いてたんだな……!」となったり。

◆デジャ・ヴ
バットマンデジャヴ
「死んだ…二人とも」

こちらは1974年3月のディテクティブコミック#439のエピソード『Night of the Stalker!』をクックがリメイクした一作。
前述した『セリーナズ・ビッグ・スコア』に登場したジェフとスタークがヴィランとして登場していますが、時系列はセリーナズ・ビッグ・スコアよりも前のお話。

ケリー、ジェフ、スターク、アントラーという4人組のグループが宝石強盗の道すがらに、とある親子連れのうち夫婦を殺害して逃走。
その犯行現場を目撃し、両親をいきなり殺されて放心している子供の姿を幼い頃の自分と重ね合わせたバットマンは激昂。
バットマンは逃走するスタークらを追いかけ、一人ひとり確実に追い詰めて仕留めていく……というストーリー。
陰影を強調したアートワークもあって、バットマンに倒されていく犯罪者たちのシーンの演出は実にホラー的。
それにしても『セリーナズ・ビッグ・スコア』でのスタークとジェフはカリスマ性のある悪人として描かれていてセリーナが信頼して手を組むのも納得なキャラクターだったのに、こっちでは罪のない一般人を殺して平然としているキャラなため、急にクズ度がマシマシでちょっと脳が困惑する。

◆クライム・コンベンション
バットマン&スピリット
「逃げろ!」
「つくづく指図が好きな奴だな!」


こちらは前述した『デート・ナイト』とは逆に、ジェフ・ローブがライター、ダーウィン・クックがアートを担当している一作で、かのウィル・アイズナーが新聞漫画のヒーローとして1940年に生み出したキャラクター『スピリット』とバットマンがクロスオーバーしたエピソード。
めちゃくちゃ歴史のあるキャラクターだけど、日本だと相当なアメコミファンでもない限りはフランク・ミラーによる実写映画版の『ザ・スピリット』でギリ知ってるって人がちらほらいる程度かもしれない。これといって邦訳も無いしね……。
セントラルシティ(フラッシュが活躍する都市名とかぶってるけど当然別物)の市警本部長ドーランとゴッサムシティのゴードン本部長が旧知の間柄という設定から始まり、二人がバットマンとスピリットの出会いを回想する……という展開から始まる内容。
飄々としたキャラのスピリットと、他所では実在が疑われているというバットマンは最初の間は若干相性悪めな雰囲気だったんだけど、共闘していくうちに互いに信頼関係が生まれていくという王道なクロスオーバーをやっております。バットマンヴィランとスピリットのヴィランも総登場してるため、なかなかのお祭り作品っぷりを見せつけてくれる!

◆キリング・タイム
ハーレイのキリングタイム
「トニー…自分の目が信じらんない。白髪が生えちゃってるゥ!」

こちらはライター、アマンダ・コナーによるハーレイ・クイン第2シリーズの番外編的エピソードで、ダーウィン・クックはアートを担当している一編。
以前に小プロが刊行した『ハーレイ・クイン:キス・キス・バン・スタブ』にも収録されていたエピソードなので被り作品ではある……んだけどあの本はもう絶版で入手困難だし、あと本書では新たに翻訳が行われているので、既読組でも訳の違いが楽しめます。本作の内容もキス・キス・バン・スタブのレビューでめちゃめちゃ軽くですが触れてるのでそっちで。まあとにかくハーレイ・クインがクックのアートワークも相まってめちゃくちゃカワイイってワケ。

◆〆
本書はダーウィン・クックが手掛けた短編作品の他にも、他誌に提供したバリアントカバーの数々も収録されており、マジでこの一冊で相当な『ダーウィン・クック分』を補給できる一冊に仕上がっていました。
収録作は連続するエピソードから抜粋しているような作品も無く、全て完全な単独作品で構成されているので事前知識が求められない内容なのも嬉しいポイント。
しかしまあ、兎にも角にも表題作である『バットマン:エゴ』がとんでもねえ名作なので、とにかく買ってみてこの『エゴ』を読んでほしいという一言に尽きますね……!!
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