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27 2022

崗田屋愉一&パコ・ロカ他/バットマン:ザ・ワールド

バットマンザ・ワールド表紙
“バットマンとともに世界一周の旅を”

ダークナイトの正義の闘いは、世界へ!

長きにわたり、暗く不気味なゴッサムシティで犯罪との闘いを繰り広げてきたバットマン。しかし、橋と路地と摩天楼の向こう側を見渡したダークナイトは、正義を求める声に国境はなく、正すべき悪はどこにでもあると気がついた……!
世界各国から選ばれた最高峰の作家陣が、自らの国を舞台にバットマンの過去、そして現在を語る画期的アンソロジー。日本からは、江戸を舞台にバットマンと浮世絵師との交流を描いた崗田屋愉一作『縛られぬ者』を収録。その他、スペインのパコ・ロカ、韓国のイ・ジュンギなど豪華アーティストが参加する記念碑的作品集!
世界のどこにいようとも、彼のバットマンとしての本質に変わりはない。世界規模で展開するバットマンの闘いを見逃すな!


◆収録作品

2021年09月:Batman: The World


◆Proving that Batman is a true pop culture icon-and that the call for justice knows no borders.
2014年に75周年を迎えたバットマン。そこから毎年9月にはバットマンを称える『BATMAN DAY(バットマンデー)』という企画が始動するようになり、昨年、2021年の目玉企画として行われたのが、日本を含む世界14カ国の作家によるアンソロジー作品『バットマン:ザ・ワールド』の刊行であります。それぞれの国の作家が、各々の国を舞台にした短編作品を制作するというコンセプトの一冊!!
アメリカやフランス語圏の作品はアメコミやバンドデシネの邦訳が毎年色々刊行されているので触れる機会は多いかもしれませんが、トルコやメキシコ、韓国や中国の作家によるコミックはそうそう日本語で読む機会はありませんし、そういう面でもこの邦訳は貴重……!

ただし当方不勉強であり、ぶっちゃけるとアンソロの参加陣で知っている作家がブライアン・アザレロ&リー・ベルメホコンビ、そしてパコ・ロカだけという状態なので、各作家の紹介はほどほど……というか本書に収録されている解説文を実際に読んでもらうとして、「この作品はここが良きだぜ!」という風にだらだら語る感じのレビューになります。いつもどおりか。
ってことでさっそく各作品を紹介!!

◆アメリカ:街から世界へ
街から世界へ
『この世界すべてが私の街だ。もし彼女を傷つけたら……私がお前を傷つける…』

ライターはブライアン・アザレロ、アートはリー・ベルメホという、バットマン作品ではお馴染みのコンビの作品。
「ゴッサムシティは私にとって妻のような存在だ」と、様々なヴィランとの戦いをバックにバットマンの独白が綴られていく内容。
「バットマン、なかなか倒錯してるな……」となるエピソードですがしっかりオチがあり、文字がデジタル風味のフォントな事にもちゃんと意味がある一作です。ただ、ラスト3コマのブルースの表情を見ているとやはり色々含みはありそうな気もする……!

◆フランス:パリ
バットマン・パリ
「彼女はここを守ってる…見つかったら大変だ。早く行こう」
「むしろ見つけてほしいとしたら?」
「何?」


ライターはマチュー・ガベラ、アートはティエリ・マルタンによる、キャットウーマンがルーヴル美術館『とある目的』のために侵入するという一編。
今ルーブル美術館の学芸員にはワンダーウーマンが就任しているため、バットマンはキャットウーマンが大変な目に遭う前に必死に犯行を止めようとする。
で、最後の最後にキャットウーマン……セリーナのその目的が判明するんだけど、「かぁーっ!ブルセリ!かぁーっ!」って感じになるいじらしい展開でした。こんなん見せつけられたらそりゃワンダーウーマンもああいう顔になる。

◆スペイン:本日休業
パコ・ロカブルース
“浜辺に行き……名物を味わい…
 …いつもとは違った夜の過ごし方を知って、人生を満喫しましょう。ブルース様”


邦訳が刊行された『家』や、アニメ映画にもなった『しわ』で日本でも知名度が高いパコ・ロカが描くバットマンの短編。「パコ・ロカが描くバットマンってどんな感じになるんだ……!?」と個人的に一番気になっていた作品です。

毎日休みなく続けているバットマンの活動により、肉体的にも精神的にも大きく疲労が蓄積しているブルースを癒やすために、アルフレッドはスペインでの休暇を取らせる……というお話。
休暇の数日間、ブルースは犯罪との戦いを忘れ、海を眺め、色々美味しい料理を味わい、カジノで遊んだりする……ものの、後半からはホテルで本を読み、ルームサービスや宅配で食事しずっと部屋でテレビを見たりしてだらだら過ごす時間の使い方になっていってるのがミソ。その結果ちょっとお腹が出てくるブルースの姿は珍しすぎて必見。

◆イタリア:イアヌス
イアヌスとバットマン
「バットマン。かつてお前から仮面をかぶった理由を聞いた。
 あとで気がついた。あれは自分の運命に負けた男が、
 他人の運命を変えるための方便にすぎなかったと。
 自分自身を信じられないお前が、他人を説得できるわけなかろう」


ライターはアレッサンドロ・ビロッタ、アートはニコラ・マリ、彩色はジョバンナ・ニーロによる、本作オリジナルのヴィラン、『イアヌス』とバットマンの戦いを描く短編。
ローマ神話に登場する守護神『ヤヌス』になぞらえて過去と未来を見通せる事を自称するヴィラン、イアヌスことチェーザレとバットマンの関係性が、現在から過去へとさかのぼる形で描かれていく構成になっているのが特徴。
このチェーザレという男を掘り下げるために過去から現在ではなく、時系列をどんどん古くしていくという描き方だからこそ物悲しさが際立つようになっているのが巧みな一作です。
劇中で登場するブルースの恋人がジュリーバットマン最初期のヒロインなのも地味にシブい要素。

◆ドイツ:よりよい明日
環境問題に取り組むジョーカー
「古巣?あっちじゃ、もう俺はお役御免だよ。
 だって、イカれた道化師がホワイトハウスの執務室で汚物をまき散らしてんのに、
 みんな大喜びしてるんだぜ。
 それに引き換え、ドイツ人の深刻でつまらなそうなこと、ジョーカーが必要だろ!」


引用したジョーカーのセリフを見ての通り、彼がドイツに現れた理由がキレッキレな本作のライターはベンヤミン・フォン・エッカーベルク、アートはトーマス・フォン・クマント
環境問題に目覚めたジョーカーが政治家を買収して大量の二酸化炭素を排出し、有害廃棄物を開発途上国に押し付けるという化学薬品会社を経営する男、シュタインガルトナーを誘拐し、環境活動家に接触して自然破壊の元凶となる人物を殺害していく計画の協力を持ちかけるというストーリーです。
このエピソードに登場する中にマトモな人物がほとんど居ないというのも見どころ。

◆チェコ:赤い群れ
REDMASS.jpg
『彼らは正義を信じない。
 歴史的に正しい・・・側にいれば、何をやっても正当化されると信じている』


ライターはシュチェハーン・コプジバ、アートはミハル・スハーネクによる、冷戦の緊張が高まっていた1984年のプラハを舞台にした物語。
フデツ医師が手引し、自殺衝動を植え付ける超能力を持つキム・コバルを利用し、西ヨーロッパを襲う精神兵器を完成させようとしている計画をバットマンが食い止める!というストーリー展開です。
余談だけど劇中でバットマンと比較されているチェコのコミックのキャラクター『ボビーク』とはスーパーヒーローコミックのキャラではなく、『チティジリーステック』という作品に出てくる豚を擬人化したキャラらしい。
【Bobík | Čtyřlístek】

◆ロシア:バットマンと私
ロシアのバットマンファン
『彼はずっと人助けをしてる…子供の頃、私が考えたとおりに。
 なのに、目も口元も若々しいままだ。そんなことってあるのか?
 そして私は…笑った。構うものか。
 彼は私が考えていたとおりのヒーローだった。それで充分さ』


ライターはキリル・クトゥーゾフ&エゴール・プルートフ、アートはナタリア・ザイドワ
幼い頃に祖父から笑顔が印象的なバットマンのペンを貰い、その日からバットマンのファンになった少年。
年を重ねて社会人になり、アメリカの新聞記事でバットマンというヒーローの存在を本格的に知っていく。
そしてさらに年を重ねて壮年になったある日、自分の国で犯罪者を追いかけるバットマンを目撃する……という内容。

どこにでも居る普通の男性の視点から、時代によってコスチュームや雰囲気が変化しつつも、若々しい姿のまま、そして根っこの精神性が変わることなく悪と戦い続けるバットマンの姿を描く一編です。
バットマンが全く年をとっているように見えない理由を曖昧にして、『第二次大戦前から今日に至るまで連載が続いている“バットマン”という作品』をメタ的に表現しているのも面白い部分。
この作品、個人的に『バットマン:ザ・ワールド』で一番好き……!!

◆トルコ:ゆりかご
鷲のヴィラン
“東から西へ 昨日から明日へ
 私たちの心は石へと変わる 力によって、永遠に”


ライターはエルタン・エルギル、アートはエセム・オヌル・ビルギチ
ゴッサムに武器の密輸を企てている謎の組織の存在を察知したバットマンは、組織の下っ端が口封じに殺される前に言い残した謎の暗号を解読するためにトルコへと旅立つ……というストーリー。
この計画を裏で手引していたのは本編でもお馴染みのあの組織なんだけど、彼らの下部組織として本作に登場したチームは公式に採用しちゃっても面白い気がする。まあまあインパクトがあるオチでした!

◆ポーランド:街の守護者
ポーランドの守護者
「何をバカな!あの男は死の象徴でしょ…
 バットマンこそがゴッサムに怪物を呼び込んだんじゃなくて?
 戦争に政変…もう恐怖はたくさん。
 ワルシャワは荒廃した街並みを復元して、ようやく平和を手に入れたの。
 あなたの金もゴッサムの影もここには必要ない」


ライターはトマシュ・コロジエチャク、アートはピオトル・コワルスキー、彩色はブラド・シンプソンが担当。
ピオトル・コワルスキーはゲーム『ウィッチャー』『ブラッドボーン』のコミカライズだったり、他にもマーベルで仕事をしていたりもする方なので知っている方もちらほらいるかな。

ワルシャワの犯罪率はずば抜けて低く、その理由が街に設置されている警備システムが『犯罪者を予め捜索して未然に防ぐ』という優秀な技術によるものと知ったバットマンは、ブルース・ウェインとしてこの最新鋭の技術を保有しているワルシャワ・テック社のバドフスカという女性に接触して買収の話を持ちかけるものの、ゴッサムの悪名のせいでにべもなく断られてしまう……というエピソード。
現実にワルシャワは夜に出歩いていても比較的安全で治安がいい場所ではあるものの、一部地域は要注意エリアとして警告がなされていたりもするので、劇中ではそういうリアルな部分も反映されていて面白い一作。

◆メキシコ:葬儀
幽霊の声を聞くバットマン
「苦しんでる女性を見た気がした?
 残念ながら…珍しい光景じゃありません。ウェインさん。
 あなたは幽霊を見たのかもしれませんね。
 …ラ・アトルメンターダ…虐待され、むなしく助けを求める女の魂。
 幽霊船みたいにさまよう存在です」


ライターはアルベルト・チマル、アートはルーロ・バルデスによる作品で、ウェイン・エンタープライズの社長としてメキシコに出張した際に、女性の幽霊を目撃した事をきっかけに事件を察知してバットマンとして活動する姿を描いた一編。
ルーロ・バルデスはマーベルではX-MEN系のタイトルで色々アートを手掛けていたりもしたので、知っている人は知っているかも。
あと、ルーロの描くブルースがとんでもなく色気のあるイケメンに仕上がっているのでそっちも必見……!!

◆ブラジル:ヒーローのいる場所
暴力と破壊と不公平と偏見
「バカめ…どうせ明日になれば私は無罪放免さ。
 私には金と……権力がある。この国じゃ何よりもそれがものをいうんだ。
 バットマンでも変えられんさ!ハハハハハ!」


ライターはカルロス・エステファン、アートはペドロ・マウロ、彩色はファビ・マルケスが担当する一編。
ブラジルの雇用を創出するためにウェイン産業をブラジルに進出させたものの、出資した金がどこかに消えており、一年経っても工事が遅々として進まない状況に疑念を覚えたブルースは、バットマンとしてその調査を開始するというエピソード。
ヒーローは一時的に悪を倒す事はできるものの、本当に世界を救い変える事ができるのはヒーロー個人の力ではなく……という、物語の最後に描かれるメッセージ性が染み渡る作品です。

◆韓国:記憶
虎柄スーツのバットマン
「お説教なんて聞きたくない。わたしは兄さんに恩があるの。
 昔、兄さんに火事から救われなければ、わたしは家で焼け死んでた。
 文句ならあとで聞くから、早く装置を取り戻しましょう」


ライターはチョン・インピョ、アートはパク・ジェグァン&キム・ジョンギによる一作。
韓国にもあるウェイン・テック社の技術者、ミン博士が用意した虎柄の新バットスーツをバットマンが身にまとい、記憶を映像化する技術を盗み出したヴィランのサバと対峙し、また犯罪者として死んでしまったミン博士の兄に関する真相を突き止める……というエピソード。
戦闘シーンはアメコミではなかなか行われない、漫画的な集中線や動線が効果的に用いられていて迫力満点!!
あとこの虎柄スーツは公式に採用されてほしいくらいにはカッコいい……。

◆中国:バットマンとパンダガール
パンダガール
「あたし、バットマンの大ファンなの。
 見て。限定版のロビンのマスクに、バットマンのアクションフィギュア。
 子供の頃から武術の修行をしてるのも、彼みたいに正義のために戦いたいからよ」

「本物のバットマンはこの人形よりもっとハンサムだぞ」
「あら、見たことがあるんだ」
「いや…バットマンは一種の都市伝説さ。本当に見た人はいないんじゃないかな」


ライターはシュイ・シャオドン&ルー・シャオトン、アートはチウ・クン、彩色はイー・ナンが手掛ける一編。
ウェイン・エンタープライズの一部の役員が、中国のとある一帯を強引に買い占めようとする動きを起こしている事を察知したため、ブルースは単身中国に渡り、バットマンとしてその計画を阻止するストーリーであり、その中で大好きな祖父の食堂を地上げ屋から守るために戦うバットマンファンの武道少女、キキと出逢い共闘する……という展開が描かれます。
こちらの作品もバットスーツが中国の武将の鎧のような意匠にアレンジされていて必見な一作!あとパンダガールことキキちゃんがかわいい……。

◆日本:縛られぬ者
崗田屋愉一バットマン
「へっ…!何が奉行所を“差し置いて”だ。
 お前らが仕事しねえから蝙蝠が代わりにやってくれてンだろ!」
「テメエの怠慢棚に上げて良く云うぜ」
「蝙蝠の活躍を無かった事にして手柄を横取りしようってか?」
「瓦版の記事にするのも許さねえなぞ滅茶苦茶だ」
「今度は何だ?瓦版買ったら捕まるだ?」
「ふざけんじゃないってンだ。木っ端役人が」


『バットマン:ザ・ワールド』のトリを飾るのは日本の漫画家、崗田屋愉一(岡田屋鉄蔵)先生!!
『ヤングキングアワーズ』や時代劇漫画雑誌『コミック乱』の読者なら反応してしまう人選でしょうね……。あとBLを嗜んでいる方も「この方か……!」となるかも。

「江戸時代末期の日本にバットマンがいたら?」という『もしも』を描いた一作で、怠慢な奉行所に代わって悪を裁く蝙蝠の存在に、町の人々は瓦版を通して盛り上がるものの、奉行所はこの事態を重く見て、まずはこの蝙蝠が活躍する絵を発表し続けている絵師をひっ捕らえようとするが……というストーリーです。
瓦版のバットマンの絵は月岡芳年歌川国芳の作品のパロディになっており、絵の中に書かれている文章も(読み取るのは難しいけど)しっかりバットマンナイズされていて面白い点。
あと当たり前だけどこの作品のセリフだけは翻訳じゃなく、オリジナルそのままに掲載されているっぽいです。

◆〆
オリジナルキャラや独自設定を混ぜ込む事にかなり寛容なアンソロジー企画なのもあって、イアヌスというヴィランやトルコの『ゆりかご』に出てくるヴィランの設定、アジア組が描く大胆アレンジのバットスーツの数々など、本作の一発ネタで終わらせるのはもったいない気がする要素も多く、読んでて楽しい一冊でした。
各国の多種多様な作風が全14編も堪能できるというのも満足感が強め!
一部の作家は自国が現実に抱えている社会問題を作品に反映していたり、アジア勢はみんなバットマンのスーツをアレンジしがちという謎の共通点など、そういう部分を色々見出すのも面白いかも。
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