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24 2022

ウォーレン・エリス&ブライアン・ヒッチ他/バットマンズ・グレイブ

バットマンズ・グレイブ表紙

「貴様か。貴様には無関係だ。出しゃばるな」
「お前が人を殺した時から無関係ではない」
「死んだのは罪なき市民じゃない。
 貴様自身は警官でもない。独特な癖を持つ犯罪者だ。
 つまり、手を出さなければ貴様と戦う理由はない」

「興味深い視点だな」
「犯罪者の思考をたどり、世界の実態を暴く才能があるのさ。
 この世界は…血みどろだ」


ありふれた殺人事件が、バットマンを死へと誘う

世界有数の犯罪都市ゴッサムシティ。
ここではごくありふれた、
安アパートでの殺人事件の捜査に乗りだした
世界最高の探偵バットマン。
簡単に解決すると思われていたこの殺人事件は、
ゴッサム中を巻き込む大事件の始まりに過ぎなかった……。
捜査を進め、事件の真相に迫るほど大きな傷を負い、
バットマンは死へと近づいていく。
世界最高の探偵は、事件の裏で糸を引く
“スコーン”の正体を暴き、
生きて事件を解決することができるのか?


◆収録作品

2019年12月:The Batman's Grave #1
2020年01月:The Batman's Grave #2
2020年02月:The Batman's Grave #3
2020年03月:The Batman's Grave #4
2020年04月:The Batman's Grave #5
2020年05月:The Batman's Grave #6
2020年08月:The Batman's Grave #7
2020年09月:The Batman's Grave #8
2020年10月:The Batman's Grave #9
2020年11月:The Batman's Grave #10
2020年12月:The Batman's Grave #11
2021年02月:The Batman's Grave #12


◆これは、死へと向かうバットマンの物語
バットマンの異名といえば、ダークナイト(闇夜の騎士)、ケープド・クルセイダー(マントの戦士)、そして世界最高の探偵!!
今回紹介するバットマンタイトル『バットマンズ・グレイブ』は、バットマンの探偵としての要素を前面に推しだしたサイコミステリー作品です。実際のところ、ミステリー要素が強めなバットマン作品の邦訳は貴重なところがある……というか、そもそも普段のバットマン作品ってそこまでガッツリ目のミステリーはやってないので、そういう部分でも本作『バットマンズ・グレイブ』は新鮮な面白さがあるタイトルです。
ちなみに本作は正史ではなくエルスワールド物であり、お馴染みの登場人物もバットマン、アルフレッド、ゴードン本部長に絞られているシンプルっぷりで、予備知識もバットマンの基本設定だけ知っていればスッと物語に入り込めるタイトルなのもウリの一つ!『レックスコープ』が存在するあたり、スーパーマンの宿敵レックス・ルーサーも存在する世界観なようではあるものの、あんまりストーリーとは関係ないので無問題。ってわけでそろそろ内容の方を紹介!

***

物語は、安アパートで元検事の男、ヴィンセント・ウィリアム・スタニックの変死体が発見されたことから始まります。
ゴッサム市警が通報に応答する余裕が無い事を知ったバットマンは自分がこの捜査に乗り出すんですが、現場で何が起こったのかを突き止めるためのバットマンの思考法、これがスゴい。
徹底的に調べ上げた被害者の情報を元に思考に没頭し、事件の被害者……『死者』になりきって死の直前までの行動を徹底的に脳内でトレースするという、何度も続けていると自分の精神がどんどんすり減っていきそうな方法を取っているのです。
思考に没頭しすぎて時間を忘れてしまう事もしばしばあるようで、アルフレッドは「死者になりきると少しずつ命を削られますよ」と警告してるんですが、本作のバットマンはこの思考法を用いて次々に起こる殺人事件を捜査していきます。

エドは私の最高の親友だ

1つの事件を解決すると今度は別の事件が。その事件を解決すると今度はまた別の事件が……という風に、バットマンが各地で起こる事件を捜査していくにつれ、軽蔑軍団スコーン・アーミーなる謎の軍団の存在とそのボス、『スコーン』という謎の人物が影で様々な事件を影で操っている事が明らかになっていく……というのが本作のストーリー。
ヴィランは『スコーン』以外にもエルスワールド物らしく、正史とは微妙に設定やビジュアルを変えて色々登場するのですが、コーネリアス・スタークDr.カール・ヘルファーン(ドクター・デス)カーネル・サルファと、そのチョイスが異様に渋めなのがまた特徴的。なかでもフラミンゴ「お前フラミンゴだったの!?」ってくらいクセの強いキャラに仕上がっていてインパクト大。正史世界とは違う気持ち悪さが出ていてなかなかの良ヴィラン。

『バットマンズ・グレイブ』でのバットマンは狂人寄りのヒーローという解釈で描かれているようで、ゴードン本部長からもパラノイア呼ばわりされていたり、アーカム・アサイラムの所長、ジェレマイア・アーカムはもう完全にバットマンの事を精神病患者として扱っており、アーカムにバットマンの病室を用意しているなど、バットマン本人だけがその自覚が無い状態って感じなのがなかなか危うい雰囲気。
戦闘シーンも不殺主義はそのままだけど、一部シーンでは尋問の際、(本当にやったりはしないものの)相手の下半身を消失させる恐怖を味わわせたり、各部の骨を容赦なく折りまくってトドメにアゴの骨も外してなんかもうグニャグニャな状態の身体にしてたりとなかなかエグい!
性格自体は正史寄りなので『オールスター:バットマン&ロビン ザ・ボーイ・ワンダー』版ほどではないですが、この容赦のなさっぷりはなかなか怖いな……!

アルフレッドのお馴染みの皮肉も本作は全体的にキツめな表現が多く、「貧しさから犯罪に走った人々を大富豪が叩きのめしている」「ゴッサムを丸ごと買い取る方が簡単なのにそうせず暴力を選んでいる」とやけ酒を飲みながら言い放ったり、「23時間もゴッサムを駆け回らなくてもコンピュータの画面越しで殆どの業務が片付きます」などなど、活動のサポートはきっちりしているけど、アルフレッドの「坊っちゃんにはバットマンを辞めてほしい」という思いが正史以上に強めな性格に描かれてます。
あと「人員を選抜した自警団を結成すればもっと有意義だろう」という提案に関しては、正史のようにバットマンがバットファミリーを作っていない事への対比にもなっていて印象深いセリフ。まあバットファミリーがいる正史でもブルースはずっと無茶しまくってるけど。

……って感じで、終始暗くてエグく、重苦しい雰囲気なのは間違いないタイトルですが、キツいとはいっても切れ味鋭いアルフレッドの皮肉シーンは本作の貴重なコミカル要素でもありますし、ちょっとふふっとなる場面自体は他にもあったりします。
バットマンがバットモービルをスコーン・アーミーに爆破され、徒歩での移動を余儀なくされるシーンとかはなんともシュールで好き。

徒歩移動するバットマン

◆感想
面白かった!!!
被害者の思考をトレースするバットマンの推理演出、序盤から終盤にかけて次々に起こる事件が黒幕『スコーン』へと収束していく物語展開、スタイリッシュさよりも生々しさが強めな暴力アクションが合わさり、かなりの良質アクションミステリー/サイコスリラーに仕上がっている一作でした。

ただまあ一点、『バットマンを死へと誘う』という宣伝文句で煽りまくっていた本作の物語の結末が「えっそういう感じで終わっちゃうの!?」となっちゃう感じの展開で正直あっけにとられた。それまでのストーリー展開は、謎が謎を呼ぶ流れでどんどん気になって読み進めてしまう構成だっただけに、急に雑に要素を回収したというかなんというか……。バットマン……ブルース・ウェインと境遇が似ているスコーンの顛末は『いつかバットマン自身が迎える結末である』という部分を描いているような作りだったのと、アルフレッドが警告したあの捜査法を繰り返して精神をすり減らし続け、最後の最後に手を差し伸べたスコーンが自殺したのがバットマンにとっての『トドメ』になる展開と思っていただけに、「もっと何か良い感じの演出は無かったのかな……!」と、なんともいえない気分になったのが正直なところ。まああのラストシーンでのバットマンは『あのスコーン・アーミーの残党の攻撃で深手を負って死亡した』とも、『あくまで両親の墓の側に用意した自分の墓まで誘われるように辿り着いたところで気を失っただけ』とも取れるので、そこは好きに解釈してもいいのかもだけど!!
※ネタバレなので一部反転してます。

スコーンとバットマン

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