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18 2019

ポール・ポープ&ホセ・ビラルビア他/バットマン:イヤー100

バットマンイヤー100表紙

「上司によると、ゴッサムのバットマンははるか昔に実在してたそうだ。
 だが今じゃ、“覆面男”なんて存在してねぇ。
 その話が事実なら、GCPDのところには彼に関する書類があるはずだよな。」

「ああ…どこかに彼のファイルがあるはずだ。
 紙の書類か、フロッピーか、CD-ROMか。」

「昔の書庫を漁って、バットマンの情報を見つけ出すんだ。どんなことでもいい。
 1939年まで遡って徹底的に調べろ。いいな、ゴードン」


誰も見たことのない闇の騎士を目撃せよ!

時は2039年、未来のゴッサムシティで一人の連邦警察官が殺害された。ワシントンが誇る世界最高の機密部隊が容疑者を追うなか、元ゴッサム市警本部長の孫にあたるゴードン警部は、独自の捜査を開始した。そして彼は、その容疑者が存在してはならない男だという事実にたどり着く。この暗澹たる未来には、政府の陰謀、超能力警察、ホログラム通信が満ちあふれ、プライバシーなどない。あらゆる人間があらゆることを知っている世界に“秘密の正体”などありえないのだが……唯一の例外があった。それは、人々が忘れ去ってしまった過去の英雄バットマンの存在だった。闇の騎士はこの事件の容疑者とされるが、誕生から100年後のこのゴッサムにバットマンは生きているのか?本当に彼が犯人なのか?
アイズナー賞2部門(ベスト・リミテッドシリーズ部門|ベスト・ライター/アーティスト部門)に輝いた、稀代のアーティストであるポール・ポープとホセ・ビラルビアが描いた表題作のほか、『ベルリン・バットマン』『ティーンエイジ・サイドキック』『ブロークン・ノーズ』も同時収録!


◆収録作品

1998年12月:Batman Chronicles #11
2000年05月:Batman: Gotham Knights #3
2005年04月:Solo #3
2006年04月:Batman: Year 100 #1
2006年05月:Batman: Year 100 #2
2006年06月:Batman: Year 100 #3
2006年07月:Batman: Year 100 #4


◆The dark prince of comix takes Batman thirty years into the future.
近未来、2039年のゴッサムシティ。
この時代ではヴィランという社会問題が解決し、スーパーヴィランが跋扈する事が『完全に』無くなっていた。
今のゴッサムではゴッサム市警だけでなく、軍隊のように行動する連邦警察隊『FPC』が全市民を徹底的に監視し、治安を維持しているのである。
そんなゴッサムの駅構内で、一人の連邦警察官が何者かによって殺害されるという事件が発生する。
FPCが威信をかけて捜査した結果浮かび上がった容疑者は、都市伝説上の存在でしかない過去の英雄、『バットマン』であった……。

***

バットマンがコミックデビューを果たした1939年から100年後となる未来、2039年を舞台とした、監視社会と化したゴッサムというディストピアな雰囲気が漂う世界で展開されるバットマンの物語……それが本作、『バットマン:イヤー100(ワンハンドレッド)』!!
本作のライターとアートの両方を務めるのは、アーティストやデザイナーとして様々な活躍をしているポール・ポープ!!(彩色はホセ・ビラルビアが担当)
ポール・ポープは90年代には講談社の抱える漫画家としても活動されていたとか。
【「漫画とアメコミはこう違う」元・講談社アメリカ人漫画家が語る"米国のヒーローと日本の悩めるダークヒーロー" | HEAPS】

暴力的な戦闘スタイルのバッツ

ポール・ポープの荒々しくも迫力のあるこのアートは、常に不穏な雰囲気を纏っている本作の物語と非常にマッチしていて控えめに言って最高です。
コスチュームも全体的にゴツくなっており、軍用のコンバットブーツを履き、マスクもメキシカン・プロレスラーを意識したアレンジがなされ、そこに吸血鬼のような歯が加えられてまさに恐怖を与える存在といった様相。
戦闘スタイルもかなり暴力的で、普段のシリーズのバットマンとは異なる印象を与えるキャラクターに仕上がっています。

それと本作ではバットマンという作品でお馴染みのキャラクターが殆ど登場しないというのも結構異端な内容。
敵味方含め、バットマンとゴードン警部以外は本作のみの新キャラで固められています(名前のみだったりカメオ出演的な扱いであればちょこちょこ登場しますが)
バットマンの協力者の一人である『ロビン』もかなり軽薄なノリの若者として登場はするものの、この世界のディックなのかジェイソンなのかティムなのかは終始不明。

そして『イヤー100』のバットマンは1939年からゴッサムで活動している英雄なのですが、何分資料が少なく、短い映像やわずかな写真、ちょっとした報告書などが残されているだけで、今や都市伝説として語られる存在。
今この時代に居る2039年のバットマンが過去に確認されたバットマンと同一人物なのであれば、既に130~140歳という超高齢なハズの謎の人物です。
筆跡鑑定や声紋判定では同一人物という結果が出ているようなのですが……。

連邦警察の追っ手をかいくぐりながら殺人事件の調査を進めるバットマン。同じくこの殺人事件に疑問を感じ、独自に捜査を始めるゴードン警部。
二人は事件の真相に迫っていくうちに、想像を絶する巨大な陰謀の存在を知ることになる……という展開に。
勢いと迫力全開な戦闘描写、そして謎が謎を呼ぶ殺人事件……アクションとミステリーが絶妙なバランスで混じり合ったこのストーリーは是非実際に読んで体感してほしい。

***

本邦訳には表題作の他に、過去にポール・ポープが手がけたバットマンの短編作品が3作同時収録されています。一つが『ブロークン・ノーズ』という作品で、こちらは以前に邦訳された『バットマン:ブラック&ホワイト2』にも収録されています。
内容はこんな感じ。ただ翻訳者が異なるのでまた新しく訳し直されています

もう一つは『ティーンエイジ・サイドキック』という初代ロビン、ディック・グレイソンがメインの短編。
バットマンがディックを相棒として迎え入れた理由、そして万が一バットマンがロビンを喪った時、彼が『孤独な闇の存在』に成り果ててしまう可能性を示唆するなど、ポールのバットマン&ロビン観が堪能できる一編です。

で、個人的に一番刺さった短編が、ポールがコミック業界で初めて手がけた作品でもある97年の短編、『ベルリン・バットマン』!!
本作もエルスワールド物となっていて、「もしバットマンがユダヤ人で、ゴッサムシティではなく、ナチスが支配する1939年のベルリンに現れたとしたら……?」という“IF”を描いた内容です。

そんなエルス物の作品の主人公は、表の顔は社交界の名士、バルーク・ヴェイン
しかしその正体は社会主義に反対し、不正と戦い、表現や思想の自由のために戦うヒーロー……『ザ・バットマン』なのである!

バルーク・ヴェイン

バルーク・ヴェインがやたら色気のあるビジュアルをしていて良い!!(叫び)
あと時代設定が1939年という事で、バットマン最初期のビル・フィンガー&ボブ・ケイン期を意識した台詞回しやアートも多く盛り込まれており、キャライメージを若干変えた新鮮味のある内容と初期バットマンリスペクトな遊び心を楽しめる一編になっていて、これが初仕事とは思えないくらいクオリティの高い作品でした。これは是非実際に読んでみてほしい。

◆感想
めちゃくちゃ面白かった!!!!!

謎が謎を呼ぶストーリー展開が楽しいのもあるけど、戦闘描写がまた目を引く内容になってるんですよこれが。
バットマンといえば万能ベルトを用いた超絶便利なガジェットを駆使しまくる印象ですが、本作は近未来設定でありながらフィクション全開な各装置の使用は控えめで、作者であるポールの意向により肉体と頭脳、そしてバットマン自身の強い意志で困難な状況を切り抜けるようになっています。
その結果、けっこうズタボロな状態で帰還することもあるのですが、その泥臭さが本作の作風とマッチしててまた堪らない。
エルスワールド物は一冊で満足度が高いストーリーを楽しめるから最高だよね!!

ただ、物語の中で起こる殺人事件の真相はきっちり明らかになるものの、作中でいろいろ示される“謎”に関してはその多くが曖昧にされたまま終わります。
一部の真相に関しては読者に想像させるタイプの作りなので、ここはちょっと賛否があるかもしれない。個人的には想像の余地を残すタイプのストーリーも嫌いじゃないけども。

あとこれは余談なんですけど、本作には作中では一切説明が無されない『とある略称』がちょこちょこ飛び出すんですが、この邦訳版の解説では翻訳者が作者にコンタクトを取って正式名称を確認した項目があってちょっと感動しました。こういうの、大抵の邦訳では詳細不明な項目はそのまま詳細不明とだけ記載して終える事が多いから……!

バットマンは都市伝説ではない

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