光文社マーベルコミックス ファンタスティック・フォー
- CATEGORYアメコミ(MARVEL)
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「わたしたち全員は変わってしまったんだ 人間以上のなにものかに…」
ファンタスティック・フォーの4人は、いまおそらく、世界で一番人気のあるスーパーヒーロー・チームだろう。
彼らが登場したのは1961年で、これが、いわゆるマーベル・コミックスによる<コミック・ブック>の革命の第1弾となったのだった。彼らやスパイダーマンなどが、アメリカのコミックスの流れを変えたのである。
宇宙船を浴びて、それぞれちがった超能力を持つようになったリード・リチャーズ(彼の顔だちと髪の感じは、いまは亡きロバート・ケネディに似ている)、その婚約者のスー・ストーム、その弟で短気なティーン・エイジャーのジョニー、そしてフットボール選手として鳴らしたベン・グリムは、はじめのころのエピソードでは、共通のコスチュームを持たず、ふだん着のままで活躍していたものだ。
ニューヨークのバクスター・ビルに部屋を借りているが、その家賃が払えなくて追い出されそうになったこともある。しかも、この4人組は、それまでのヒーローたちとは違って、しょっちゅう喧嘩ばかりしている。内部分裂をおこして、ベンやジョニーが家出(というのかな)したこともあった。
リーダーのリードが、天才科学者なので、次つぎと新しい発明や装置が登場することも、このコミックスを、派手なものにしている。空を飛ぶファンタスティ・カーも、改良を重ねて現在のは新型になっているし、そうしたメカニズムを駆使して、宇宙にとびだし、異星人と戦ったりするのだから、はなしのスケールが大きくなる。
それだけに、このマンガからは、新しいキャラクターが次つぎと生まれてきた。宇宙魔人のようなギャラクタスや、高貴なシルバー・サーファー、超知性のウォッチャーなど、いずれもSF冒険コミックスのはばを広げたわき役たちだ。
だが、なんといっても、すばらしいのはドクター・ドゥームである。ジプシー民族の子供として生まれ、大学時代はリードといっしょだったことのある彼は、やはり天才科学者でありながら、別の道を歩んだ。科学実験に失敗し、その焼けただれた顔を、鉄マスクにつつんだ彼は、世界征服の野望に燃え、事実、バルカン地方の小国ラトヴェリアを支配する専制君主なのだが、読者は、この誇り高き悪の王者が耐えつづけている孤独の深さに圧倒されるだろう。
おそらく彼は、コミックス史上最大の、しかもなお魅力的な悪役である。映画「スター・ウォーズ」に登場す黒仮面の悪人、ダース・ヴェイダーが、ドクター・ドゥームのイメージを受け継いでいることは、間違いない。
ファンタスティック・フォーは、ひとつの家族みたいなものだ。家族の歴史のなかには、悲しみも喜びもある。それをきっと、読者であるあなたも、共有することになるだろう。
◆1967年アニメ版ファンタスティック・フォー(宇宙忍者ゴームズ)OP
◆収録作品
○第1巻
1961年11月:Fantastic Four #1 ※各シーンを抜粋しての収録
1968年11月:Fantastic Four Annual #6
1968年12月:Fantastic Four #81
1969年03月:Fantastic Four #84
1969年04月:Fantastic Four #85
1969年05月:Fantastic Four #86
1969年06月:Fantastic Four #87
1970年05月:Fantastic Four #98
1978年01月:Fantastic Four #190
○第2巻
1966年03月:Fantastic Four #48
1966年04月:Fantastic Four #49
1966年05月:Fantastic Four #50
1968年03月:Fantastic Four #72
1968年05月:Fantastic Four #74
1968年06月:Fantastic Four #75
1968年07月:Fantastic Four #76
1968年08月:Fantastic Four #77
1968年08月:Silver Surfer #1
○第3巻
1961年11月:Fantastic Four #1 ※モールマンのオリジン部分を抜粋して収録
1969年07月:Fantastic Four #88
1969年08月:Fantastic Four #89
1969年09月:Fantastic Four #90
1969年10月:Fantastic Four #91
1969年11月:Fantastic Four #92
1969年12月:Fantastic Four #93
1970年02月:Fantastic Four #95
1970年06月:Fantastic Four #99
1970年07月:Fantastic Four #100
○第4巻
1970年09月:Fantastic Four #102
1970年10月:Fantastic Four #103
1970年11月:Fantastic Four #104
1970年12月:Fantastic Four #105
1971年01月:Fantastic Four #106
1971年02月:Fantastic Four #107
1971年03月:Fantastic Four #108
1971年04月:Fantastic Four #109
1971年05月:Fantastic Four #110
1971年06月:Fantastic Four #111
◆異次元へ 宇宙の果てへ 地底世界へ…
小野耕世氏による訳と解説が付いている光文社マーベルコミックスシリーズ。
この「ファンタスティック・フォー」は1977年~1978年にかけて4巻まで刊行されました。

スタン・リーが脚本を手がけるマーベル隆盛期の作品を読むことが可能なうれしい単行本です。
ヒーローのオリジンもしっかり収録されており、作品の入門書としてはベストな邦訳コミック。
ただしフルカラーなのは巻頭のみで、あとは全ページ白黒です。残念。
当然トーンとかを用いているわけでは無いのでやや白っぽいです。
それでも十分なまでに書き込まれているのでそこまで気にならないのが凄い。

翻訳は原書にほぼ忠実ではあるものの、吹き出しのスペースの都合上かなり圧縮して翻訳しているそうです。
この光文社マーベルコミックスはB6版のコミックスというのもあり、原書よりもさらにスペースが狭くなるため原文を削るのは苦肉の策だったのでしょう。
しかしストーリーは全く崩れていないのでかなり読みやすいです。というか全部直訳してたらとんでもない文章量になるのかも。なんというか潔いです。
要旨を正確に切り抜いて翻訳しているのでサクサク読み進めることができます。
とはいえ原文をかなりスポイルしていることが見てとれるので本来の文章がどのような内容だったのかはやっぱり気になっちゃうんですけどね…
次に、各巻の一部エピソードを紹介します。
◆ファンタスティック・フォー1巻
この第1巻では主人公リードとヒロインのスーが既に結婚し、息子のフランクリンが誕生間近な所から収録されています。
そのためFFメンバーはリードとジョニー(ヒューマン・トーチ)、ベン(シング)、そして産休中のスー(透明ガール)に代わり、自然の力を自由にコントロールできるクリスタル(エレメンタル)で構成されています。
この巻は1話完結のエピソードが多いのですが、ドクター・ドゥームのエピソードはかなりのページ数を割いて収録しています。

注釈によると1巻の時点ですでに何度か対峙しているようです。
ドゥームは自分が建国した『幸福王国(ラトベリア)』にFFのメンバーを閉じ込めるという行動をとります。
その目的は何度も自分を邪魔してきたFFに対する復讐。
催眠術をかけてメンバーの能力を封じ、死ぬまでラトベリアに閉じ込めようというのです。
なんとも恐ろしい発想。
もう一つ、『ベン・グリムの回想』というそれまでのエピソードの総集編的な内容の話が収録されています。
このエピソードではいきなり『リードが脱退するかもしれない』という話になっています。
なんかいきなりFF内の軋轢が大きくなっていて読者としてはちょっと戸惑うエピソードです。
そしてベンが自分の恋人のアリシアにこれまでのいきさつをものすごい説明口調で解説するという流れになっています。
邦訳の際に全部のエピソードを収録するのは難しいため、色々と都合の良い回でもあったんでしょう。
この回想で実はかなりの古参キャラクター(1939年)、アトランティスの王子、ネイモア(サブマリナー)との対峙エピソードも語られます。
どうも彼は行方不明になっていたらしく、すっかりヒゲを伸ばしてドヤ街でチンピラと喧嘩していたというエピソードはホントに何があったのか気になる回想シーンでもありました。

その後FFと対峙、そしてスーにいきなり一目惚れ、だがそのスーはリードと結婚してしまい荒れに荒れたというエピソードまでベンは説明してくれます。
その後サブマリナーがまたも来襲、FFたちは今度こそ息の根を止めてやると戦おうとしますがスーが間に割って入り、和解することが出来たのだとか。
なんか色々とインパクトのあるエピソードですね。
個人的にネイモア関連は普通に本編を見てみたいです。
ちなみにリードがFFを脱退するという話になったきっかけの事件は、息子のフランクリンが持つエネルギーがついに臨界点に達し、太陽系の全生命を死滅させるほどものとなってしまったため、リードがやむなく試作段階の化学兵器を息子に用いてしまったのが原因です。
その結果息子フランクリンが目を覚まさなくなり、スーとリードの夫婦仲がバラバラに。
FFはこのまま解散してしまうのか…?というところで終了します。
アリシアからしたら「最初からそこだけ説明しろよ…」って感じでしょうね。
1970年頃のエピソードを中心に収録している本書ですが、この『ベン・グリムの回想』という作品は話が一気に飛んで1978年のエピソード。
恐らくですが、2巻以降はこのシングの回想に話が追いつくよう順番に邦訳していくという構想があったのかもしれません。
結局全4巻で刊行がストップしてしまい、他のエピソードと全く繋がらないチグハグな構成になってしまいましたけど。
◆ファンタスティック・フォー2巻

ギャラクタス「ワシが活躍する貴重な邦訳だ!」
2巻は歴史的エピソード、ギャラクタス来襲&シルバーサーファーまわりのエピソードのみで構成されています。
1話目からいきなりギャラクタス来襲とは衝撃的な展開…ていうか1巻のFF内の軋轢は結局どうなったのか。
残念なことに1巻のエピソードの続きは完全にうっちゃってしまっています。
これ読者から色々言われなかったんだろうか。
続きが凄い気になるんですけど…
で、ギャラクタス来襲ですが、星のエネルギーを奪って生きているというギャラクタスの力はすさまじく、とてもFFたちがかなう相手ではありませんでした。
しかしアリシアに人間について教えられたシルバーサーファーは必死にギャラクタスを説得、ジョニーが決死の思いで手に入れてきた太陽系を破滅させるマシンでギャラクタスを脅し、ギャラクタスを追い返すことに成功します。
しかし、その際ギャラクタスは自分を裏切ったシルバーサーファーから宇宙を飛ぶ能力を奪っていきます。
地球から出ることが出来なくなったシルバーサーファーは、とりあえず全世界の空を飛び、地球のことを知る旅に出ることにしたのでした。
ゴームズが結構原作に忠実にアニメ化していた事が分かるエピソードでもあります。
本書にはシルバーサーファーのオリジンも収録。
惑星ゼン・ラに居た頃の彼の本来の姿を見ることも出来ます。

ギャラクタスに自分の惑星ゼン・ラを襲われた彼は、自分が星の案内人となる事と引き換えにゼン・ラを救います。
そしてギャラクタスの手によって、永遠に星の案内人となれるようにシルバーサーファーとなったのです。
2巻にはギャラクタス2度目の来襲も収録されており、最も目の離せない展開の多い巻です。
◆ファンタスティック・フォー3巻

3巻ではスクラル人が登場。ベンを騙して他の惑星の住民に奴隷として売りつけるという、
まさに宇宙人の拉致行動そのものな展開を見ることが出来ます。
売りつけられた先はギャングが支配している星。
そして科学は今の地球よりもずっと進んでいるという特殊な場所です。

他には100号記念で制作されたヴィラン総登場エピソードも収録。
といっても出てくるヴィランはマッド・シンカーとパピットマスターという二人のヴィランが作ったアンドロイドという設定なんですけどね。
登場するヴィランはドクター・ドゥーム、ドラゴンマン、サブマリナー、スクラル人、レッドコースト、スーパーゴリラ、ウィザード、サンドマン、トラップスター、そしてハルクとかなりお祭り騒ぎなエピソードです。
◆ファンタスティック・フォー4巻
この巻だけ背表紙の巻数のデザインが前3巻と異なっています。
『4』だからかな?
4巻にはマグニートーがネイモアの統治するアトランティスと地上の人類との同士討ちを図り、世界制服を画策するという今見るとなんかすごい新鮮なストーリーが収録されています。
そしてマグニートーがやたら悪役顔に描かれています。

このエピソード内で小悪党風味に見えるのは『ミュータントの救済』を望む部分があまり描写されないせいもあるかもしれません。
とはいえ冒頭でネイモアに対し、「あんたも俺も人類のつまはじき者だ」、「よく考えてくれ 人間は…」と発言するシーンがあったりはします。
もう一つのエピソードはヒューマン・トーチの恋人、クリスタル(エレメンタル)の血液の化学組成にシングの体を元に戻すカギがあることを主人公リードが発見、そして実験を行いみごとに治療してしまうという衝撃的な内容です。
そしてシングの体から本来の人間の姿、ベン・グリムに自由に変身出来るようになりました。

しかし実験の副作用により性格が激変。
自分の恋人のアリシアにひどい暴言を吐いたり、外では市民に暴力を振るったりと凶暴な性格になってしまいます。
(ちなみに実験後すぐにアニヒラスやネガマンと戦うエピソードがあります。登場人物ではなく、まず読者にシングが少しおかしくなっている事を気づかせるという構成が上手い。シングが大きなトラブルを起こすのはこの後)
FFの評判は急落、そしてシングは街で大暴れを続けるという状況…さらにいきなりのハルク乱入…一体どうなってしまうのか!?
といったところでなんと終了。
4巻最後に『世紀の決戦は第5巻へ!』と煽られているのですが刊行されずに終わってしまいました。
作品の続きは隔月刊漫画雑誌『ポップコーン』に掲載されていたのだとか。
続きを読むにはこの雑誌を入手しなければいけないというなんともハードルの高い宝探しを要求されます。
◆〆

本書には読者投稿のページもあり、低年齢層の読者に受けているという今見るとちょっとビックリな光景を見ることが出来ます。
ファンの声のなかにはシルバーサーファー好きの女の子の声もあり、なかなか衝撃です。
「彼が恋人シャラ・バルを思うときの悲しげな表情、なんとも言えない!!ほかにもシルバーサーファーの大ファンになった人って多いと思うのですが、もーダメよ!シルバー・サーファーは私のもの♥私がツバつけたんだから、誰にもあーげない!」
シルバーサーファーファンな女子ってはじめて見た。
この光文社マーベルコミックスの値段は一冊たったの350円。
(参考までに講談社コミックスKC「あしたのジョー」1冊の定価は230円)
手軽にアメコミに触れることが出来た時代だったってのはうらやましいですな。
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