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27 2018

ジム・ステランコ&スタン・リー他/ニック・フューリー、エージェント・オブ・シールド

ニック・フューリーエージェントオブシールド表紙
「(あの手の女に男はてんで弱いんだ!
 さぁ、ようやく机仕事から解放されるぞ!ここから出られりゃ何でもいい!
 いつもそうだ!ちょっとうたた寝した途端に警報で起こされる!
 まさか、またイエロークローか?ハイドラか?Dr.ドゥームのご登場か!?
 何でもいいさ、すぐわかる!)」

稀代の革命児が残した最大の遺産!

わずか3年余りの活動期間ながら、コミックスの歴史に鮮烈な足跡を残したアーティストがいた。その名はジム・ステランコ。ジャック・カービーに強い影響を受けながらも、サイケデリック・アート、オプティック・アートなど、当時の最先端のアートを習得した彼が、その持てる力の全てをぶつけたのがこの作品です。
世界的なブームだったスパイアクションにヒーローコミックを融合させた意欲作。コミックアートの一つの頂点がここにある!


◆収録作品

1966年12月:Strange Tales #151
1967年01月:Strange Tales #152
1967年02月:Strange Tales #153
1967年03月:Strange Tales #154
1967年04月:Strange Tales #155
1967年05月:Strange Tales #156
1967年06月:Strange Tales #157
1967年07月:Strange Tales #158
1967年08月:Strange Tales #159
1967年09月:Strange Tales #160
1967年10月:Strange Tales #161
1967年11月:Strange Tales #162
1967年12月:Strange Tales #163
1968年01月:Strange Tales #164
1968年02月:Strange Tales #165
1968年03月:Strange Tales #166
1968年04月:Strange Tales #167
1968年05月:Strange Tales #168
1968年06月:Nick Fury, Agent of S.H.I.E.L.D. #1
1968年07月:Nick Fury, Agent of S.H.I.E.L.D. #2
1968年08月:Nick Fury, Agent of S.H.I.E.L.D. #3
1968年10月:Nick Fury, Agent of S.H.I.E.L.D. #5


◆OLD MAGICIAN NEVER DIES, HE JUST STAND FAST
マーベルコミックスの長い歴史の中でも「コミック史に残る名作」を邦訳していく、出版社ヴィレッジブックスによる通販限定シリーズ、『マーベル・マイルストーンズ』の最後を飾る第4弾は、様々な脅威から世界を守る組織『S.H.I.E.L.D.』の大佐であるニック・フューリーを主役にした『ニック・フューリー、エージェント・オブ・シールド』!!

第1弾が『X-MEN』、第2弾が『ファンタスティック・フォー』、そして第3弾が『アベンジャーズ』だった事を思うとなんだか渋いチョイスに思えますが、本作はアートの面でアメリカン・コミックス界に大きな衝撃を与え、今でこそアメコミで多様化した各表現の基礎を築いたといっても過言ではない、素晴らしい功績を残した一作なのです。

当時映画では『007シリーズ』が大ヒット、TVでは『スパイ大作戦』、『それ行けスマート』など様々なスパイ物が制作されており、まさに『スパイブーム』の絶頂期ともいえる時代に作られたこのニック・フューリーの物語とアートの両方を手がけたその人物の名は、ジム・ステランコ。
ジムはSFコミック『アダム・ストレンジ』のスクリプトを見て独学でコマ割りとセリフの書き方を学び、1966年にハーベイコミックスにてヒーローコミックスの立ち上げに関わって以降、マーベルコミックスでインカーの仕事を得たのですが、その後スタン・リーが新人アーティストである彼にスクリプトの執筆まで任せるという異例の判断を下したことで、ステランコは“生ける伝説”ともいえる仕事ぶりを発揮する事になるのです。

最初こそジャック・カービーの絵柄をマネた感じのアートなのですが、サルバドール・ダリの絵やポップアートなどからインスピレーションを受けたというジムのアートは回を重ねるごとにどんどん洗練され、資料写真を混ぜ込んだ演出や実験的なコマ割り、ケレン味のある色使いなど実に芸術的な画面構成に進化!

ジム・ステランコの実験的コマ割り

それだけでなく、前述の通りジムはライターも兼任しているのですが、スパイアクションというジャンルでありながら渋いハードボイルド物にとどまらずSFアクション、ホラーテイストの物語など実験的な脚本も多く、加えてコミックス倫理規定委員会による修正を命じられつつも、殺人表現やセクシャルな表現も許可されるギリギリを貫いて描写していくそのストーリーは強烈に目を惹きます。
これが60年代後半に作られたコミックだという事実には驚かされる……!

本書にはそんなジムが手がけた29作品中、初期の22作品が収録されており実にボリューム満点。
各長編エピソードと一話完結の短編を数話収録した一冊となっており、『ストレンジ・テールズ』誌時代は一緒に連載されていたドクター・ストレンジとの同時収録というのもあって一話のページ数が約12ページと少なめなものの、クラシックなアメコミ特有の会話量の多さで一話一話の密度が異様なまでに濃い!!

本作に収録された物語は実にバラエティ豊か。
ハイドラやA.I.M.といった国際的危険因子である組織を解体するため、日夜活動するシールド。
地球上全ての核弾頭を起動させることができるという凶悪すぎる音波兵器の起動を食い止めるため、ハイドラの首領であるスプリーム・ハイドラの凶行を阻止するエピソードではこの首領が直々に変装し、ブロンソン捜査官としてシールドに潜り込むなど大胆すぎる物語が展開されていきます。
このスプリーム・ハイドラの正体はあの有名ビランなので結構テンションが上がる。

それとペドロー島を拠点に世界征服計画を企てているイエロークローとの戦いでは、キャプテン・アメリカとチームアップして対処にあたる長編エピソードに発展していきますし、この他にも突如現れた宇宙からの侵略者と対峙し、敵の兵器を奪ってニックが不定形のエイリアンに変身して戦うというカオスで不気味なエピソードがあったり、レイブンロック城で巻き起こる“心霊現象”の解明にあたる話があったりなど、実に色々な方面にアプローチした作品を堪能できます。
シールドってマジで色んな事件にあたってるな……!

バラエティ豊かなガジェットを駆使して戦うニック・フューリー

スーパーパワーを持たないフューリーはこういう様々な強敵や難事件、何度も直面する苦境を、シールドから支給される豊富なアイテムを駆使して乗り切っていく。この辺りはDCコミックスのバットマンのアクションの面白さに通じるものがあると思う。

酸素カプセルを飲むことで数秒だけ水中で呼吸を可能にしたり、腕時計型の磁気リパルサーで鉄針攻撃を回避したりする一方で、一気に対象をカビまみれにするカビ繭弾といった武器や、よく分からないネジみたいな小型の機械で敵兵器のエネルギーを吸収したりとか、結構ぶっ飛んでるアイテムが登場したりしますが、そこはまあ古い作品特有のご愛嬌と言うか、そういうご都合主義的なアイテムの存在含めて楽しむべきというか……!それにしても昔のマーベルコミックスって、SF要素が絡むと超技術すぎる兵器がよく登場してる気がする。

あと本作では、何気にあのボンドカーに先駆けて透明になるフェラーリを登場させていたりするのにも注目だ!

◆感想
クラシックな作品というのもあり、アクションシーン中とは思えぬ会話の文量とキャプションの長さは実際今見るとややしんどい部分はありますが、ジム・ステランコによるダイナミックなアートとサイケデリックな色彩に実験的なコマ構成など様々なテクニックが用いられており、そのインパクトでグイグイと読み進め、時にじっくり眺めてしまう作りになっています。
メディア分析家によるジェームズ・ロンバーガーによると、「絵で語るテクニックの多くはジム・ステランコが生み出したものである」と語っているとか。
『稀代の革命児が残した最大の遺産!』という本邦訳のアオリは誇張ではないと思える一冊でした!

こうして『ニック・フューリー』シリーズの人気を大幅に引き上げ、新人でありながらジャック・カービー、ジョン・ビュッセマといった看板アーティストと同等のギャラを得るほどの出世を成し遂げたジム・ステランコですが、昼の広告代理店の仕事、夜はバンド活動といった生活で次第に連載に穴を開けるようになりカバーアーティストに転向しちゃいました。
加えて70年代中盤からは出版社の経営などで忙しくなり、依頼される形でたまにカバーアートを寄せるだけになったのだとか。ここまでの実力を持ちながら、実際にコミック制作に深く関わったのは3年余りという短さ。そりゃ“生ける伝説”になるよね……

最後に個人的にツボだった脇役キャラクターをちょっと紹介。
以前に邦訳された2008年作品の『ハルク:レッドハルク』にて、いつものヘリキャリア墜落でさらっと死亡したクレイ・クォーターメインという脇役シールド隊員がいたのですが、実は彼、本作が歴史的初登場であったらしく、作中ではこれがまたかなり印象深いキャラクターをしていてなんとも面白かったです。

脳筋ぎみでフューリー大好きっ子すぎるダムダム・デュガンや、頭脳キャラでありながらちょくちょくコミカルな一面を見せるジャスプ、ツッコミ役を兼任する黒人キャラのゲイブなど、レギュラーであるシールドのメンツはみんな異様にキャラが立ってて楽しいんですが、彼は特にキャラが濃い!!

クレイ・クォーターメイン初登場
この常に笑顔でお喋りな彼がクレイ・クォーターメイン
フューリーの同僚はみんな結構キャラが立ってるんだけど彼は特に印象的
どんなに激しい戦闘中であってもこの笑顔が崩れることはないのだ

それと同時に、古参のレギュラーキャラでも死なせる時はあっさり死なせるというアメコミの業の深さを改めて再認識しましたね……

◆ヴィレッジブックス・石川裕人氏によるジム・ステランコ語り
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