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22 2018

ジェフ・ジョーンズ&フィル・ヒメネス他/インフィニット・クライシス

インフィニット・クライシス表紙

「今この地球は…堕落している…どうしてこうなった?」
「こうって?」
「喜びがない。アレクサンダーとの記録で、君と仲間達の行いは把握している。
 彼らが敵を、そして味方をどう扱ってきたか見てきた。
 洗脳し…殺す。なぜ私が生き延びられたのか、理解できなかった。
 この宇宙における私の存在意義は何なのかも。今まではな。
 再生した宇宙はアース-1をベースにした世界だった。
 他の世界の残骸がその隙間に織り込まれた。
 だがやっと気づいたよ。我々は救う地球を間違った。
 カーラ、君の助けが必要だ。ロイスを救おう。彼女を故郷に連れて行けば助けられる。
 消えるべきは私達の地球じゃない。この地球なんだ。あるべき地球を取り戻そう」


クライシスふたたび

世界は崩壊の危機に瀕していた。ジャスティス・リーグが活動を停止する一方、ビラン達はかつてない強大な軍団を組織する。銀河の彼方では惑星ランとサナガーの星間戦争が勃発し、魔界でも魔神エクリプソが混沌を解き放つ。しかも頼りのスーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンは、各々が問題を抱え、歩み寄る事さえできない。
もはや望みは絶たれたかと思われたその時、伝説の彼方に消えたはずのあのヒーローが還ってくる!だがそれは、新たなる「クライシス」の幕開けでもあった──
俊英ジェフ・ジョーンズが送る『クライシス・オン・インフィニット・アース』の続編たる一大叙事詩、ついに邦訳!


◆収録作品

2005年12月:Infinite Crisis #1
2006年01月:Infinite Crisis #2
2006年02月:Infinite Crisis #3
2006年03月:Infinite Crisis #4
2006年04月:Infinite Crisis #5
2006年05月:Infinite Crisis #6
2006年06月:Infinite Crisis #7


◆関連作品過去記事
【クライシス・オン・インフィニット・アース】
【スーパーマン/バットマン:パブリック・エネミー】
【スーパーマン/バットマン:スーパーガール】
【アイデンティティ・クライシス】
【グリーンランタン:リバース】
【バットマン:アンダー・ザ・レッドフード】

◆INFINITE CHALLENGE
1985年、DCコミックス創立50周年という記念すべき年に発表されたクロスオーバー大作、『クライシス・オン・インフィニット・アース』
様々な並行宇宙が超存在であるアンニモニターの手によって消滅の危機に陥り、数多くの並行宇宙から戦士たちが集まって敵を打倒する。その結果残った世界が一つに融合して新たな正史世界『ニューアース』が誕生するという、ストーリー展開のスケールがとにかく大きい歴史的名作エピソードです。

それから20年が経った2005年。クライシス20周年というまた新たな記念すべき年に発表されたのが、『クライシス・オン・インフィニット・アース』の正当な続編となる本作、『インフィニット・クライシス』!!

本作『インフィニット・クライシス』はこのクロスオーバーイベントに至る前に様々な(未邦訳の)前日譚で丁寧に伏線が張られ、加えて上記の『関連作品過去記事』に挙げたタイトルでも本ストーリーに繋がる『前フリ』がなされているほど入念な計画の下に制作された一作。
そういう丁寧な下地があって、その数々のストーリーが収束する最終エピソード『インフィニット・クライシス』が始まるという構成のため、本書に入っている前日譚のあらすじを読み込んだり、可能な限り本作以前の邦訳を……少なくとも『クライシス・オン・インフィニット・アース』は読んでおいてほしいところかな。

本記事のレビューに必要なので、クライシス・オン・インフィニット・アースのラスト部分をちょっとだけ紹介します。
※今後読もうと思っている人はここで回れ右してください。

***

何度打ち倒してもしぶとく立ち上がってくるアンチモニターに完全なトドメを刺すため、覚悟を決めて片道切符の反宇宙に残ったアース-2のスーパーマンとアース-プライムのスーパーボーイ・プライム、アース-3のアレクサンダー・ルーサー、そしてアース-2スーパーマンの為に救出されていた彼の世界のロイス・レーン。
見事アンチモニターを打ち倒し、並行宇宙を救い出した偉大なヒーローである彼らは、アレクサンダー・ルーサーが作り出した平和な隔離空間“天国”に移り住み、新たな宇宙『ニューアース』の行く末を見守る事にしたのであった……

クライシス・オン・インフィニット・アースのラスト

***

……と、ここまでは『クライシス・オン・インフィニット・アース』の感動的なエンディング。
正史世界が『ニューアース』に突入してからはヒーロー達も新たな世界の歴史に取り込まれて『クライシス』での戦いの記憶は失い、各ヒーローのオリジンが再度語り直されたりと、DCコミックスは色々と希望に満ちた再スタートを切ることとなりました。

しかし知っている人は知っていると思いますが、ここからが問題なのです。
2代目ロビン、ジェイソン・トッドの死、ベインに背骨を折られ、バットマンを引退するブルース・ウェイン、スーパーマンの死、ワンダーウーマンの称号を返上してしまうダイアナ、常軌を逸し魔神パララックスと化したハル・ジョーダン……新たなDCユニバースでは『グリム&グリッティ』と揶揄される、暴力的で陰鬱な展開が続くこととなったのです。

加えてヒーローないしヒーローの近親者が次々に殺されていく『アイデンティティ・クライシス』によりヒーロー同志の不和はピークに達する。そして『人類救済計画』を発動したマックスウェル・ロードの凶行を止めるため、ワンダーウーマンがなんと彼を殺害(『首コキャ』するという出来事も起こってしまう。
『アイデンティティ・クライシス』を受けてバットマンが作り、マックスウェル・ロードに乗っ取られてしまっていたメタヒューマンの行動監視を目的としたスパイ衛星『ブラザーアイ』は彼の死を持ってしても健在であり、衛星と連携しているOMACと呼ばれる戦闘用ドローンは世界中に拡散され、その暴走は止まらない。

レックス・ルーサーの呼びかけにより結成された悪人軍団『ソサエティ』と、ロック・オブ・エターニティ崩壊により世に放たれた七つの大罪が暴れまわり地獄と化した地上。遥か宇宙、セクター2682『ポラリス恒星系』では惑星ラン近くの宙域に裂け目が生じ、とてつもない銀河嵐が巻き起こっている。
世界が、宇宙が崩壊直前にまで差し迫っている危機的な状況でありながら、スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマンはそれぞれの考え方の違いから信頼関係が壊れかけており、手を取り合うことができずにいた……

この状況に憤っていたのが、“天国”でニューアースを見守っている、歴史から忘れられる存在となった偉大なヒーロー達、アース-2スーパーマン、スーパーボーイ・プライム、アレクサンダー・ルーサー、そして歳を取り、すっかり弱りきっているロイス・レーンであった。
何もかもを犠牲にして生み出した『ニューアース』をどんどん破滅に導いていくヒーロー達に失望しきった彼らは、世界を救うために必死に次元に干渉し続け、ようやく次元の壁を打ち破りニューアースに降り立つ。
そして彼らは決意する。真に救うべきは堕落しきったこの地球ではなく、『一度全ての宇宙から存在が消えてしまった自分たちの地球』であると!

アース2スープスVSバットマン

……というわけで、『クライシス・オン・インフィニット・アース』で世界を救うために歴史の表舞台から姿を消した偉大なヒーロー達ですが新たに再構成された世界『ニューアース』の行く末を見守っていくうちにその世界に失望し、「救うべき世界を間違った」と判断して地球をすげ替える計画を進めていく黒幕となる……っていうのが本作のストーリー展開。
なんというかもう絶望しかない。圧倒される。

あとスーパーボーイ・プライムの過去に類を見ない悪辣なビランっぷりは実際に本作で確認してドン引いてほしい!
『クライシス・オン・インフィニット・アース』の頃の正義感の強い純粋な青年っぷりはどこに消えたのか、その言動や行動は完全に癇癪を起こした子供……その上スペックはスーパーマンのソレなのだから、かなり質の悪いビランに成り下がってて本気で引く。
もちろんここまで性格や考えが凝り固まったのも『ニューアース』の体たらくを見てきたことや、母代わりだったアース-2のロイスの存在などそれなりの理由があるわけなんだけれど……もう……もう……!

スーパーボーイプライム大暴れ
ここでの癇癪によるヒーロー大虐殺はまだまだ序の口
ストーリーが進む毎にニューアースのスーパーボーイへの嫉妬を拗らせ、
スーパーボーイ・プライムの性格は壊れていく

◆感想
めちゃくちゃ面白かった!……のですが、その一方で『クライシス・オン・インフィニット・アース』の感動をブチ壊しにするショッキングな展開が多いのもあり、自分の中ではなかなかの問題作でもある内容でした。
だってこれ……偉大な先人が書いた『クライシス・オン・インフィニット・アース』の物語を鬱展開で繋いで、感動のラストを生んだヒーロー達を悪堕ちさせているんだもの……いくらなんでも凄まじすぎる……それだけでなく容赦なく死と破壊が描かれ続けるし……
90年代のクロスオーバー『ブラッドラインズ』で生まれた不人気ヒーローたちが一斉に殺処分されたシーンは不謹慎ながらちょっと笑ってしまったけど(小声)

でも面白いんだよなこれ!様々なヒーローとビランを登場させて多くの事件をストーリーに絡ませつつ、過去の名作をオマージュしたシーンなども挿入して、両陣営の主張が偏りすぎないようにバランスを取り、消えた世界のヒーロー達が目論む『ニューアース』崩壊を防ぐためにヒーロー達が戦うというかなり難しい物語を見事にまとめ上げて、前作『クライシス・オン・インフィニット・アース』以上の衝撃とスケールを持って描かれるクロスオーバーに仕上げているのは流石ジェフ・ジョーンズというほか無い。
結局面白いからオールOKになってしまう。

こう、『ニューアース』で起こりまくった悲劇に対してアース2スーパーマンらが憤るという展開は、実際に『グリム&グリッティ』に憤るアメコミファンを表現しているかのようで、メタ的な要素も盛り込んでストーリーが描かれているのも上手いと感じました。
このクロスオーバーイベントを終えて、ようやくDCコミックスのヒーローたちが絶望から希望に向かっていくのもアツい点。

ちなみに『インフィニット・クライシス』終了後に正史世界が新しくなるといった出来事は特に起こりませんでしたが設定のアップデートだけはなされており、その中で『スーパーマン/バットマン:パブリック・エネミー』で張られた「ブルース・ウェインの両親を殺害したのはビランのメタロかもしれない」という伏線もあっさり回収されました。
本作での伏線回収シーンを見た僕の感想は「あの伏線張る意味あった?」です。

いきなり本作から読むのはオススメできませんが、DCコミックスが好きな人には是非とも一度は読んでみて欲しい一作!
いやぁ……改めてジェフ・ジョーンズは凄い力量を持つライターだと思った。

アース2に帰還したスーパーマン

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