Menu

ブラッド・メルツァー&ラグス・モラレス他/アイデンティティ・クライシス

アイデンティティクライシス表紙
「ところで、オリーから聞いたジョークだけど…とにかく聞いてくれ。
 ベニーという90歳の老人が死の床に就いていた。
 傍らでは、いつものように妻のドッティが彼の手を握っていた。
 ベニーが言った。
 “ドッティ、ワシらが結婚して60年以上になる。
 戦争に行くときも、相場で全財産をすって文無しになった時も、
 君は側にいてくれた。
 そして今、死にそうな時もこうして側にいる。
 ドッティ、前から言いたかったが、君は本当に…
 サゲマンだな!”
 笑えるだろ?いやいや、初めて聞くはずだ…
 どうしてわかるかって?夫だからさ。
 もう行くかい?じゃあ、話の続きはまた明日にしよう。
 いや、大丈夫さ。心配ない。元気だよ。じゃ、また明日。
 おやすみ、スー」
「うん、愛してる」

CRISIS AT HAND

正義のために命を駆けるヒーロー達。
彼らには共通の弱点があった。
家族や友人、愛する者の存在である。
その存在は彼らの力の源となる一方で、枷ともなり得るのだ。

故に彼らは正体を隠し、悪と戦い続けてきた。
そうすれば、愛する者を守れると信じて。
だが、ある殺人事件をきっかけに、その期待は脆くも崩れ去る。

ヒーロー達に今、最大の危機が襲いかかる。

『運命の書』『偽りの書』など、数々のベストセラーで知られる気鋭の小説家ブラッド・メルツァーが脚本を手掛けた問題作、ついに邦訳!


◆収録作品

2004年08月:Identity Crisis #1
2004年09月:Identity Crisis #2
2004年10月:Identity Crisis #3
2004年11月:Identity Crisis #4
2004年12月:Identity Crisis #5
2005年01月:Identity Crisis #6
2005年02月:Identity Crisis #7


◆THE BOOK OF ILL FATE
今日はスーパーヒーロー、エロンゲイテッドマンことラルフ・ディブニーの誕生日。
彼の妻であるスー・ディブニーはこの日は毎年サプライズを仕掛けており、今年もラルフがあっと驚くプレゼントを「二つ」用意して家で待っていた。
だが、そんな幸せな時間はすぐに悲劇へと変わる。
スーから突然かかってきた電話で何か異常事態が起こった事を察したラルフは張り込みの仕事を中断し、ファイヤーホークの力を借りてすぐさま彼女の元へと帰宅した。
スーを危機から救うため、全速力で駆けつけたラルフ。
しかし、そこに転がっていたのは何者かの手により無残に焼けただれ息を引き取ったスーの亡骸と、ラルフが欲しがっていた拡大鏡、そして陽性の結果が出ている妊娠検査薬だった……

突然ラルフに襲いかかった悲劇

◆DCコミックス史上最大の物議を醸した問題作
まずラルフとスーの幸せ夫婦っぷりを丁寧に描写してから急転直下の悲劇を描き、読者をしっかり曇らせてスタートする『アイデンティティ・クライシス』がようやく邦訳!!

これ確か2013年の海外マンガフェスタで邦訳が告知された一作なんだけど、記憶ではさらにそれ以前から『クライシスシリーズ邦訳決定!』という告知をどこかで見た記憶がある(ややうろ覚え)。ヴィレッジブックスは邦訳アナウンスから実際に発売されるまで異様に間があくことがちょくちょくあるのですが、この『アイデンティティ・クライシス』もそういう一冊です。待ちわびたぞ……!

基本的にヒーローが正体を隠して活動するのは愛する人や近しい人達を復讐に燃えるビランなどの魔の手が伸びないようにするためなんだけれど、この『アイデンティティ・クライシス』ではそんなヒーローの正体が判明してしまった際に、いかなる悲劇や事件を招いてしまうのかをとことんまで容赦なく描いた作品に仕上がっています。
小説家であり本作のライターであるブラッド・メルツァーが作り出すショッキングで謎が深まるストーリー展開に加え、ラグス・モラレスの各登場人物の感情が如実に伝わってく迫力のアートが合わさり、先の展開が怖くも気になってページをめくる手が止まらない。スーが殺されるだけに終わらず、次々とヒーローの家族が狙われていくというのがシャレにならない。

あとヒーローの家族らが狙われるという展開に合わせて、ヒーロー達が殺人事件を追う一方でバットマンのサイドキックであるロビンことティム・ドレイクと彼の父ジャック、ビランである初代キャプテン・ブーメランことディガー・ハークネスと彼の息子オーウェン・マーサー、二人の親子のストーリーも進行していき、片やロビンであり愛する息子の身を案じつつ活動を応援する父、片や久々に親子の対面を果たし、親として息子にブーメランの手ほどきをする父の姿が描かれていくのですが、家族ネタにかなり弱い僕はそれだけでなんだか涙腺が緩みっぱなしでしたね……そして曇り展開が目白押しな本作においてこういう心温まる展開はフラグでしか無いという怖さもまた凄かった。
やめてくれないか!不安感で読者の心を殺すのは!

キャプテン・ブーメラン親子の対面
仲間内からは今やすっかりナメられているキャプテン・ブーメランだが、
息子オーウェンにとっては憧れの親父なのである

本作はサスペンススリラーなのでアクションシーンは皆無とまではいかないものの非常に少なめ。
そんな貴重なアクションシーンが堪能できるデスストローク戦は本作屈指の名シーンの一つといっても過言ではないデキだったり。
フラッシュ、グリーンランタン、グリーンアロー、ホークマン、アトムなどといったヒーローをデスストローク一人で戦術を駆使して追い込んでいくその様はビランながらハチャメチャにカッコイイ。
デスストロークファンは必見かもしれない。

地上最強の戦略家デスストローク
マトモに戦ったらまず敵わないであろう高速移動のフラッシュは、
まず予め自分の周囲に仕掛けておいた爆弾を爆発させ、
自分の背後に回り込んでくることを予測して仕留めた
一対多でありながら類まれなる戦術と体術で確実にヒーローを倒していく

◆感想
エルスワールドではなく正史世界を舞台にしておきながら「ここまで思い切った陰鬱な展開をやっちゃうのか!?」ってくらいに曇るストーリーのイベントでした。
スーパーヒーロー物だけど中身は暗いサスペンスであり、謎が謎を呼ぶ展開、ヒーローの親しい人が次々に狙われる恐怖、全く見えない犯人像に、捜査の過程でJLAの一部メンバーが取ってしまった非人道的行為が発覚したりと、もうとにかくドンヨリする要素が多い。全盛期の金田一少年の事件簿感あるエグさ。

大まかな展開自体は過去に邦訳された『DCユニバース:レガシーズ Vol.2』の解説で知ってたんだけれどもあの本でも重要部分は伏せられており、真犯人や事件の真相といった下りは全然知らなかったので今回本作を読んで真犯人の正体に衝撃を受けました。その動機のサイコっぷりにもクラクラする。
んでもってこの殺人事件を通しても結局最後までヒーローの近しい人を守るための抜本的な対策は立たないままなわけで、やるせなさやわだかまりが残ったままストーリーが終わるのが実にツライですね……

「クライシス」を冠した規模の大きなイベントでありながらどうかしているレベルで暗いストーリーですが、話自体は間違いなく面白いと断言できる一作。登場人物は普段のコミックに比べると充分多い方だけれども活躍するキャラは結構絞られているため、クロスオーバーイベント特有の「なんかキャラが多すぎて話がややとっ散らかってる」といった面を本作ではあまり感じないのも良い部分。
クロスオーバータイトルは未邦訳(巻末で各タイトルのあらすじは記載されている)だけど、この本編のみで綺麗に話が纏まっているので無問題!……というかクロスオーバータイトルのほとんどが本編終了後に刊行されていたため、実際読まなくても大丈夫っぽいです。

アイデンティティ・クライシス裏表紙

読後感の悪さが物凄い作品ですが、本作で描かれたJLAのメンバーが取った行為に絶望したバットマンはこの後に人工衛星ブラザーMK1という物を作成し、これが今度は大規模イベント『インフィニット・クライシス』の勃発に繋がるため、DCユニバースを追いかけるのであれば欠かせない一冊なのは間違いない。
この『インフィニット・クライシス』も帯によると今年刊行予定らしいので座して待とう!
関連記事
Theme: アメコミ | Genre: サブカル
アメコミ(DC)
トラックバックURL: http://michaelgoraku.blog22.fc2.com/tb.php/1329-f95167ea