ツルゴアXXX

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11 2016

トム・キング&ミケル・ハニン他/グレイソン

グレイソン表紙

「クソ…」
「撃つ瞬間左下にブレるわね。撃つのを恐れるから、発砲の前に腕が右にしなるのよ。
 まず指を制御して。意識を銃じゃなく、標的に向けるの。
 照門に集中して。照星をその中心に合わせるのよ。
 ゆっくりと滑らせるように狙いを定めて。
 そう、いいわ。でも覚えといて。
 恐れずに、ただ爆発させるの。できる?ウィング・ナイト。
 私にやって見せて?」

「それ、やめろよ。僕の名は…」


きみはナイトウィング知っているかもしれない、だが……。

かつて、彼はダークナイトの相棒にして教え子ロビンだった。
その後ナイトウィングとなり、自らのヒーローとしての実績を築き上げた。しかし並行世界からの凶悪な殺戮者たちの侵略を受けた時、彼の正体と……世界を救う日々が犠牲となった。

……少なくとも、世界はそう信じた。

だが、それはスパイラルの工作員として活動するための、巧妙な偽装だったのだ。極秘スパイ組織の新人として、死せる神パラゴンの散り散りになった内蔵を捜し集めるグレイソン。その臓器は、ひとつひとつが大量殺戮兵器となる危険な代物だ。

一方で、彼はまだバットマンとも繋がっている。地上のすべてのスーパーヒーローたちの素性を暴こうとする、スパイラルの秘密を探るために。

慣れ親しんだ日々は終わりを告げた。ディック・グレイソンは今、二つの忠誠を試され、自らの真の姿と対峙しようとしている……。


◆収録作品

2014年09月:Grayson #1
2014年10月:Grayson #2
2014年11月:Grayson: Futures End
2014年12月:Grayson #3
2015年01月:Grayson #4
2015年02月:Secret Origins Vol.3 #8


◆関連作品過去記事
【バットマン:インコーポレイテッド】
【フォーエバー・イービル(THE NEW 52!)】

◆The Gun Goes Off
今日紹介するアメコミは、読者が選ぶ翻訳海外マンガアワード“ガイマン賞”2016年第1位に輝いたこの作品、『グレイソン』!!
おめでとうございます

『グレイソン』、評価の高さは聞き及んでいたのだけれども、他のコミックを優先して読んでいる内につい後回しになっちゃってたんですよね。
今回2016年のガイマン賞一位に選ばれて、改めてグレイソンをプッシュする声がどんどん目に入って購買意欲を刺激され続けた結果ようやく購入したのだった!

2013~2014年のクロスオーバーイベント『フォーエバー・イービル』にて登場したヴィラン集団、クライムシンジケートに敗北して捕らえられ、ヒーロー達への見せしめに「ナイトウィングの正体はリチャード・グレイソンである」と世間に公表されてしまったバットマンの相棒、リチャード・“ディック”・グレイソン

世間にその正体が晒されたグレイソン
『フォーエバー・イービル』より

戦いが終わり、その正体がバレたディックはバットマンの手により死を偽装し、この状況を利用して極秘スパイ組織『スパイラル』に潜入するという二重スパイとしての新たな任務を与えられたのだった!

このスパイラル、モリソンバットマンを読んでいた人はパッと気づいたかもしれない。『バットマン:インコーポレイテッド』で初登場した、キャシー・ケインが率いていたあのスパイ組織です。
同じくモリソンバットマンで初登場した殺人女学園『聖ハドリアン学園』も組織の隠れ蓑として登場したり、ドクター・ディーダラス(オットー・ネッツ)の娘が登場するなど色々設定やキャラを拾っていて、モリソンバットマンが好きな身としてはニヤニヤ。
解説によるとナイトウィング第3シリーズ最終号(#30)にてバットマンの正体を知っている医師、レスリー・トンプキンスがスパイラルによる催眠術でバットマンの正体を自白させられた展開があり、それが二重スパイ任務を行う事となったそもそもの発端だとか。

ディックはスパイラルの新人スパイ“エージェント37”として同じくスパイラルの工作員である女性、“マトロン”ことヘレン・ベルティネリとコンビを組みながら活動しつつ、兵器に転用できる代物であるパラゴンの内臓を回収し、さらにヒーローの正体を探ろうとしているスパイラルの行動を逐次“マローン”(バットマンがよく作戦に用いる偽名)に報告していく。
怪しい組織で活動しつつもヒーローとしての矜持は捨てておらず、活動の中で葛藤するシーンが多いのも見どころの一つ。

敵を説得しようとするグレイソン

さらに『ストームウォッチ』の元メンバーであり、かつてパラゴンの悪行を潰したヒーロー、“ミッドナイター”と対峙する事になってしまう展開にも注目だ!
元ワイルドストーム組のキャラの活躍はなかなか邦訳では拝めないのでちょっと嬉しい。
【ミッドナイター|キャラクター|DCコミックス|ワーナー・ブラザース】

グレイソンVSミッドナイター
ストームウォッチを離れ、現在はゴッド・ガーデンという組織の下で
先回りしてパラゴンの内臓を回収しスパイラルの野望を喰い止めるために戦っているミッドナイター
ディックが二重スパイである事は知らないし、ディックもミッドナイターがどういう人物か知らないため
互いに衝突してしまうのだった

あと、第1章ではニュー52版ディック・グレイソンのオリジンとこの状況に至るまでのあらすじが分かりやすく纏められたエピソード『シークレットオリジン第3シリーズ#8』が入っているのも嬉しいポイント。
(過去に邦訳された『DCキャラクターズ:オリジン(THE NEW52!)』からは未収録だった分)
この中でスターファイアーと付き合っていた設定がニュー52でも生きている事が分かるんですけど、これ今彼女はジェイソン・トッドと男女の仲になってる事を思うと「あらら」感がある。

◆感想
面白かった!!
「イケメンを主役にしたオシャレな女性ファン向け作品っぽいな~」ってのは偏見でしかなかったよ!!
ナイトウィングではない、ディック・グレイソンという人物の魅力を引き出しきっててもう最高。合間合間に入るユーモアもクスリと来るね。第4章冒頭の「ディック!」はズルいわ。
ライターのティム・シーリーとトム・キングは重厚なスパイアクションを描ききっており、そこにミケル・ハニンによるカッコ良いアートが合わさり最強に見える、そんな作品でした。
っていうか調べたらライターのトム・キングって前職CIAじゃないですか。ガチでスパイやってた方じゃないですか。凄すぎない?

フューチャーズエンドグレイソン編

そして最後に収録されているクロスオーバーイベント『フューチャーズ・エンド』のタイイン回ね!
これ本編とは無関係な独立した短編作品として読める一作(IFストーリー)なんですが、これが『ディックが絞首刑となる』衝撃的なシーンからスタートして1ページ毎に時系列が遡っていく一風変わった構成。
読み終わると冒頭シーンの意味が分かるだけでなく、作中に仕込まれた暗号を解くことで描かれてない結末に気付けるという、もう感心しすぎて唸ることしか出来ないエピソードでした!
こういう仕掛けを自然な形で日本語に落とし込んだ訳者の方には賞賛の言葉を贈りたい……!

『グレイソン』はホント面白い作品だったのですが、この1巻はそんなキリの良い終わり方をしていないので2巻以降も是非邦訳されてほしいところです。
1話1話の起承転結はしっかりしてるんでこれだけでも満足感があるっちゃああるんですけど、やっぱりスパイラルとの決着が付くとこまで読みたいし……続き出して!

   
全20話+アニュアル3話で完結済
単行本は全5巻(最終5巻は来年1月10日に刊行される模様)

◆おまけ1:グレイソン第1巻修正前カバーアート
修正前ゴリラグレイソン
やたらアゴゴリラと揶揄されるアンドリュー・ロビンソン画のグレイソン
実はあのカバーアートは修正版であり、修正前は髪型まで違っていたのだ

◆おまけ2:第6章「ただ一つの死に場所」の仕掛けの答え
最後に収録されているクロスオーバーイベント『フューチャーズ・エンド』タイインのエピソードはどんどん時系列が遡っていくという映画『メメント』のような構成であり、また他にも仕掛けが施されております。
「ストーリーの意味が分からない!」という声もちょっとだけあるみたいで、解答を載せている日本語サイトも今のところ存在しないようなのでここにこっそり書いておきます。
ネタバレなので未読の方は注意!反転して読んで下さい。

・結末について
一見救いのない展開に見えるこのタイインだが、読み進めていくうちに冒頭で首を吊るされて処刑されたディックが実は「ロープが自然に切れたように見えるように偽装できる“酸”」で助かった事が分かる。
また、後述の暗号に気づくと「ロープが切れたあと、グレイソンはヘレナの手によりヘリで脱出した」という作中では描かれていない“0ページ目”の存在に気づけるという実に凝った作りである事が判明する。


・暗号
P125にてクルーマスターが縦読みの暗号を仕込んでいた事が判明するシーンがある通り、このエピソードには重要な場面で縦読みが使われている。
P109では「おくじょうまで(屋上まで)」。
『お』それていたわ。
『く』じゅうの決断をする、この日を。
『じ』由に生きたあなたも。
『よ』泉へのロープは断ち切れない。
『う』き世の始めから。
『ま』つわるのはいつもロープ。
『で』も、これで終わり。
原書では「THE ROOF」。原書での会話はこちら

P117では「ずっとあいしてる(ずっと愛してる)」。
『ず』いぶん不満そうね。
『つ』べこべ言わないで、戦争に勝つにはああするしかなかった。
『と』っくにロシアの手の内なの。
『あ』たり前よ。
『い』いかげん大人になって、ディック。
『し』方がなかったのよ。
『て』のひらで踊るのが我々の仕事。
『る』ールは嫌いじゃなかったでしょう。
原書では「I LOVE YOU」。原書での会話はこちら

P120では「へこいた(屁こいた)」。
『へ』マしたものね。
『こ』の状況じゃ、銃は用無しだわ。
『い』ますぐナイフを出して。
『た』すかりたきゃね。
原書では「FART」。原書での会話はこちら

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